第3話 車中にて
程良くエアコンの効いた車の中、隣に座るおやじ様に尋ねてみる。
「ねえ、お父様。今日の接待相手って、外国の方なの?」
おやじ様は難しい顔をしたまま黙り込んだ。
「お父様?」
いつもと違う雰囲気に、あたしは不安になった。
余程、気難しい相手なんだろうか?
それとも、大口契約を結びたい取引先のお偉いさんかしら?
あれこれ思案していると、おやじ様が重い口を開いた。
「美月にとって…大切な人だ」
「は…ぁっ?」
訳が分からず、間抜けな声が漏れてしまう。
あたしにとって、大切な人?まさか!
「お見合い?!」
信じられない!あたしはまだ17歳よ。現役の女子高生なんだから。
確かに、あたしが通うエスカレーター式の超お嬢さま学校
『聖ニコル女学園』には、お互いの事業の利益の為にとお見合い
結婚をする人も沢山いた。
いわゆる政略結婚ってやつ。
でも、あたしはそんなの絶対に嫌!
自分の結婚相手は、自分で見つけるんだから。
あたしが、むっとして黙り込むと、おやじ様が恐る恐る言った。
「いや、見合いじゃなくて…」
「え、違うの?」
ほっとしたのも束の間。
「これから会うのは、美月の婚約者で…」
おやじ様が言い終える前に、あたしは叫んだ。
「車を止めて!あたし帰る!」
走行中の車のドアをいきなり開けようとしたあたしを、後ろから
羽交い絞めにすると
「落ち着きなさい。危ないから!」
「離してよ!」
後部座席で繰り広げられる乱闘に驚いた、運転手の小山さんが
急ブレーキをかけた。
弾みで、サイドガラスにしたたかおでこをぶつける。
「いたーい!」
「申し訳ございません、お嬢様」
小山さんが、あわてて声を掛ける。
「小山君、車を出してくれ」
ひん曲がったネクタイを調えながら、おやじ様が言った。
再び、車が動き出す。
おでこの痛みで、戦意喪失したあたしは、ふて腐れながら
窓の外を見た。何なのよ、もう!
「いきなりこんな話をしてすまなかったな。
とにかく一度会ってみてくれ。会えばお前だって絶対気に入るはずだから」
あたしは、何も答えず、ただ流れていくビル街を睨みつけるように眺めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます