ぼくのフレンド Goodbye_Best_Friend
51
「……うん。やっぱり、越えられないよね……」
黒サーバルは木の幹に背中を預けていた。
さっきまで目の前で戦っていたツチノコは居ない。そして、同じ様に稼働していた女王型セルリアンもその動きを停止している。おそらく、その全てのエネルギーを
サーバルたちはそこまで、女王にとって侮れない敵になっていた。
一にして全なる者に対抗できるものがいるとすれば、それは全にして一なる者しかいない。サーバルたちは極限までそれに近づいたが、なりきれてはいなかった。
世界のどこかに、力を貸していないものがいた。貸せない状況にあるか、貸したくないプライドがあるのか、いずれの理由にせよ、結論は変わらない。
サーバルは、本当の意味で世界と一つになっていない。だからサーバルたちは女王には勝てない。
故に、戦いは拮抗以下になる。拮抗までは出来たとしても、タネがバレてしまえばズルズルと敗北がやってくるのだ。
「でも、まだ勝てる方法が一つだけ残ってる」
そのために準備をしてきた。
そして、その工程もほぼ完了している。あとは、ただそれに
黒サーバルは、明るくなり始めた夜空を眺める。
(綺麗だな……)
生まれる前の記憶は殆どない。頭に浮かぶのはあるのは真っ暗な闇と、僅かに何かが煌めく光景だった。
何もかもが空っぽで、形のない何かを求めているような感覚は最初から存在していた。
始まりは、本当に脆弱なセルリアンだった。
サンドスターの供給すらまともに出来ず、ただ立っているだけでも大量にエネルギーを消費する。そんな、セルリアンの中でも落ちこぼれだったのだ。
放っておけば、勝手に自滅する。
火山の火口付近から離れれば即座に消えてしまい、フレンズを襲うほどの力はない。
だから、どうして生まれたのかも分からないまま、消えていくのだと思っていた。
そんな時だ。あの少女が現れたのは。
『えーっと、四神の位置はこうで……あれ、ここだとズレてますか?』
『大丈夫ダヨ、デモソノ位置ダト遠隔操作ハ難シイカモネ』
『じゃあこっちに少し寄せて……』
言っている言葉の意味は理解できない。だが、知らない内に近づいて、見入っていたのだろう。彼女はこちらに気がついた。
『ん? セルリアン、ですか……』
『ダメダヨカバン、女王トノ接続ハマダテスト段階ナンダ。セルリアンニ近ヅクノハ危険ダヨ』
『じゃあこれがテストってことで。大丈夫、何かあればすぐに動けるようにしますから』
『ア、アワワワワワワ』
彼女はこちらに、視線を合わせるように屈んできた。
それだけで分かった。その少女は強い輝きを持っていたのだ。
眩しく煌めくそれに、一瞬で心を奪われてしまった。
セルリアンは輝きを求める。何故求めるのかは自分でも分からないが、目の前を照らす何かに手を伸ばしてしまう。
少女が、優しく自分を撫でた。
本能には、勝てなかった。
だから奪った。落ちこぼれであるが故に、それも半端だったのだが。
奪った瞬間、空っぽだった自分の中が満たされることを感じた。
温かくて、心地よい。求めている理想が手に入ったのだと、そう感じた。
『おっ、と……これは、予想外でした』
見上げる少女が面食らっている。
ふと自分の姿を見回すと、セルリアンではない、別の姿になっていた。
大きな耳が特徴の、少女と同じような体。
『サーバル、さんの姿ですか。あー、うーん……やっぱりそう、なっちゃいますよね……』
『顔ガ赤イヨ、カバン』
『放っといてください……』
一度軽く咳払いをすると、少女は立ち上がって手を差し伸べる。
『初めまして、サーバルさん。ボクはかばんって言います。良ければ、ボクとお友達になりませんか?』
その手を拒否する理由なんてなかった。
落ちこぼれはその時から、唯一の友人を手に入れたのだ。
そして、一緒に過ごす内に分かってきたこともある。
かばんと名乗った少女は、あるけものに支え続けられていた。
昔も、今も、きっとこれからも。
少女にとっての
だから、セルリアンの姿はああなった。
でも再現できたのは
色彩のない、黒いサーバルキャット。
それを見て、あの子はどう感じたのだろうか。
自分の前では優しく微笑むことを心がけていた。
頭に流れ込む『毒』も、心を蝕む決意も全部抑え込んで。
『大丈夫ですよ、貴方がそんな顔する必要はないんです』
笑いかける彼女を、きっと自分は救えない。
そんな
そしてあの時、初めて自分のオリジナルを見た。
ぶつかって、話して、ぶつかって、ぶつかって、ぶつかって。
ほとんどが衝突する敵同士の関係だったけど、それでも、彼女の輝きの強さも理解していた。
本物は眩しかった。
太陽のように行く先を照らす、未来の架け橋のような存在に見えた。
対して自分は生まれたばかりの雛鳥で、色も持たず、落ちこぼれで、醜いものに映っただろう。
それでも、自分にしか出来ないことをしたかった。
それでも、自分でしか為し得ないことをやり遂げたかった。
思考と否定を繰り返して、正しさや誤りを判別して、理想と現実の合間に苛まれながら、それでも手を伸ばすのを止められなかった。
ヒーローは答えを得ていた。
別のヒーローは違う結論を提示していた。
だからこそ、決めたことがある。
それは自分にしか出来なくて、自分が為し得なければならないことだ。
輝きを返す。
セルリアンにとっては造作もない当たり前のことだけど、それでも最も難しいことだった。
でも、友達だから。
ありがとうやごめんなさいを言うみたいに、その当たり前をする時なのだ。
(ねぇ、かばんちゃん……)
教会で神に祈るシスターのように両手の手を組み合わせる。
その、たった一つの想いを届けるために。
(私は、私はさ──)
もちろん懸念はある。自分の絞りカスが、かばんたちに迷惑をかけるかもしれない。それだけは自分ではどうしようもない。
でも。
きっと大丈夫だという自信もあった。
今まで、自分やかばんのような悪役と戦い続けた
そこまで考えて、ようやく決心がついた。
そして。
(──白鳥みたいに、なれたかな)
一羽の白い鳥が、湖から飛び立った。
52
その時、深海の水底のような場所にその少女はいた。
名前はあった、はずだ。
大切な誰かに付けてもらった名前が。
それも、もう思い出せない。
ただ意識は沈んでいく。暗く、冷たい場所に。
「………………!」
何かが聞こえる。
「………………! ………、─………!」
声だ。聞き覚えがあり、心が安らぐ声。
どこだと探して、上を見上げる。
そこに、誰かがいた。
その体は白く、赤い瞳と大きな耳が特徴的だった。
「かばんちゃん!!」
「──!」
かばん。
それがきっと、自分の名前だ。確証はないけど、確信はあった。
「かばんちゃん! 手を伸ばして!!」
きっと、彼女はそれ以上こっちには来られないのだろう。一定まで近づいたところで止まっていた。こちらに手を伸ばす時を、ただ待っている。
伸ばさない理由なんてない。
目の前の友達に、迷うことなく手を伸ばす。
「掴んだ!」
そのまま、引きずりあげるようにそのけものは少女の体を引き上げた。そして勢いは止まらず、水面に向かって浮かぶようにその体は上昇する。
引きずりあげてくれた誰かが、代わりに沈んでいくが見えた。
「あ……っ!」
呼ぼうとして、名前が出てこないのに気づく。それでも諦めたくなくて、浮上することに抗おうとした。
でも、届かない。
彼女は、困ったように笑っていた。
「大丈夫、きっと勝てるよ。だから──」
最後に向けた顔は曇ってなどいなかった。
晴れ晴れとしていて、どこか煌めいていて。
ヒーローのように、見えたのだ。
「頑張って! かばんちゃん!!」
その想いに応えよう。
諦めるのは嫌だったけど、彼女の決意を無為にはしたくなかった。
だから。
53
サーバルの体が地面に落ちる。
確実に、落ちる前に当たるタイミングだったにも関わらずだ。
上を見上げる。
黒い触手は、空中で停止していた。ギチギチと震えている様子は、何かが内側から抗っているようにも見えた。
ピシリと、陶器にヒビが入るような音がする。
『貴、様……っ』
「─…………、………い」
女王から、二種類の声がした。
後から聞こえた声は、重なっていない。
そして、はっきりと。
親友の声が木霊する。
「ボクの大切なトモダチを、食べないでください!!」
バギンッッッ!! という音ともに、女王の周囲を漂っていた石が砕け散り、黒い皮膚がバリバリと剥がれていく。
『お、のれ、取り戻したというのか……っ。あと少しで、あと少しで全てが上手くいくところだったのに、ヒトでもフレンズでもない、半端者の分際で……ッッ!!』
既に顔半分は素顔が見えている。女王は片手で隠そうと覆っているが、セルリアン化の崩壊は止まらない。
完全優位は崩された。最後の頼みの綱にもなったであろうバリアも同時に失われ、今となってはただの獣の一撃すら許すだろう。
「──ッ! かばんちゃん!!」
地面を蹴る。
ただ走って、彼女のもとへ向かう。
『──
もうその炎は黒くない。青い炎が地面から噴き出してくるのをジグザグに走ることで回避する。
地面を数本の炎が走った。
それを跳躍で回避するが、それは失敗だったかもしれない。
赤い炎が天まで伸びた。
女王が笑う。
だが。
サーバルは炎の壁を引き裂いて現れた。腕一本で、その一撃を振り払ったのだ。
小さく舌打ちすると、女王は呟く。
『──
覆っていた手を離し、手の形を特定の構えに移行する。
現れたのは、黒く鈍い光を反射する拳銃だった。
『これで終わりだ、
かばんのように躊躇はしない。ただ真っ直ぐ、サーバルの眉間に標準を固定する。
(撃たせない……)
撃たせてはいけない。
サーバルは知った。一緒に戦っているヒトの記憶を通じて。
かばんは、一度もその引き金を引いて、他者を傷つけてはこなかった。人間の業で罪を重ねることはなかったのだ。
罪を重ねることは許さない。
トモダチとしてそれだけは、二度とさせてはいけないのだ。
サーバルは爪を構える。
傷つけるためではなく、助けるために。
そして、その手に誰かが手を添えたように感じた。
温かく、安心するそれが誰かなんて、いちいち確認するまでもない。
二人の力は共鳴する。
輝く爪を、虹色の炎が覆う。
誰もがその背中を押す。届かない距離を届かせるために、ただそれだけに注力する。
そして、極点と頂点は交差した。
しばらくの静寂の後、バギンッッ! という無機質な音が戦いの結果を教えてくれた。
女王の体には傷一つない。ただ拳銃だけが破壊されたのだ。バラバラになった破片が地面に落ち、その欠片も砕けて散った。
『ここまで、か……』
同じ様に、サーバルから何かが霧散する。その姿は元の、馴染みのある姿に戻っていた。
今一度、サーバルは振り返って女王を確認する。彼女は拳銃が握られていた手を見つめていた。
苦痛で顔を歪めながら、女王はその目をサーバルに向ける。
『進化、情報の保存、再生──』
その表情が、変わっていく。まるで失った大切な誰かを想うかのような、儚げで、切なげで、今にも泣きそうな子どものような表情で。
『奪われる輝き、あの日々……。守りたい、守る。全てを犠牲にしても、それでも──』
その手を伸ばして、必死に掴もうと。
求めて。
望んで。
懇願して。
願い求めた大切な誰かへその手を伸ばし続ける。
『ボクは……キミを────』
女王は歪んでいた。どこまでも
でも、その根底にあったのは願いだった。
守りたい。
失いたくない。
──ずっと、そのままのキミでいてほしい。
歪んでいても、
今のサーバルなら、そのことが分かる。
きっと、以前のサーバルなら理解出来なかった。でも、色々なものを見て、聞いて、乗り越えてきた今のサーバルならちゃんと受け止められる。
でも。
だからこそ。
サーバルは、こう言ったのだ。
「……いらないよ」
突き放す。拒絶する。
それを、薄情だと非難する者がいるかもしれない。
それを、非情だと糾弾する者がいるかもしれない。
しかしそれは受け止めたからこそ、理解したからこそ言える言葉なのだ。
「そんな救いはいらない。大好きなヒトが幸せにならないせかいなんて欲しくない。わたしはもう、いっぱいいっぱい貰ったから。わたしはもう、たくさん救われたから……だから、いらないよ」
消えかかる寸前、ヒトの業を失った女王は疑問を抱いていた。
それだけが、どうしても理解できなかった。
『何故だ……』
「?」
『何故そう言える……。この世界は醜い。ヒトは下劣で、フレンズは中途半端で、セルリアンは不完全だ。この世界が美しいと言える所など何処にもない。なのに何故──』
問わなくてはならない。
ここまで辿り着いた者に。
最後まで諦めず、奇跡を起こした者に。
その答えは得ているはずだ。
『
どれだけ悲劇を目にしても。
どれだけ醜さを目にしても。
サーバルから笑顔が消えることは無かった。
誰かを支える、その輝かしい笑顔は奪えなかった。
サーバルは難しそうに考え込むと、にへらと笑う。
「ホントはあなたの言っていること、今でも分からないことがあるんだけど……」
でも、と胸を張る。
その顔には自信が満ち溢れていた。
迷いも悩みもない屈託の笑顔のまま、サーバルは告げる。
「わたしの周りには、支えてくれる
あぁ──、と女王は想起する。
それは、自分にはないものだ。
欲を持たず、意思を持たず、感情を持たないセルリアンの群れから得られるものは何も無い。
あるのは膨大な数による暴力だけで、輝かしいものなど何も無い。
だから欲した。
だから羨んだ。
自身の力で手に入れた誰かを羨んで、魅力に見えて、欲して、だが醜いものだとも見下して……。
でも、食べるだけで笑顔を浮かべられたり、激情に身を任せても仲直り出来たり、怠けることに叱られたり……そんな平凡で退屈な日々を望んでいたのかもしれない。
(そうか……)
消えていく。
己という存在が揺らいでいく。
(……そうか)
手を伸ばす。意味が変わった、その腕をもう一度。
(勝てないはずだ……敵わないはずだ……)
だがその手をやがて下ろし、目をゆっくりと閉じていく。
その存在を、二人のサーバルが教えてくれた。
その存在を、二人のセーバルが示してくれた。
その存在を、二人のヒトが証明してくれた。
形が無くても、目には見えなくても⋯それでもその輝きはあったのだ。
(あぁ……やはり、美しいものだ。お前たちの輝きは──)
それが最後だった。
まるで儚げに揺らぐ
54
輝きは元の場所へ帰っていった。フレンズもヒトもその姿を取り戻し、次々と以前いた場所へ現れる。
見渡せば、あれだけいた女王型セルリアンの姿はどこにもない。それが言葉で表さずとも終戦の証を示し、ヒトはお互いに抱き合いながら喜んでいた。
それを、遠くからツチノコは聞いていた。静かに、後ろを振り向く。
最後の局面で起きたあれは、黒サーバルがきちんと返せたということなのだろう。
そして、木の幹には誰もいない。
「何だ……」
穏やかに目を細め、頬を緩ませた。
それは、つまり。
「オマエ、残すものなんて何も無かったんじゃねぇか」
55
戦いは終わった。だが、一つだけ残された疑問がある。
世界の共鳴に応えなかった誰か。
黒サーバルはセルリアンであるため含まれず、かばんは女王が動きを封じたため例外だ。
なら、それは誰か。
あの時、かばんに報復を受けたヒトさえ心を入れ替えた瞬間に、なおも心を許さなかったのは誰か。
ガサガサッ! と森の中にある茂みの一つからとあるヒトが姿を現した。
高そうな服は泥まみれで、肥えた体は汗だくだった。
かばんが最後に始末しようとしていた、あの男だ。
「くそっ、くそぉっ!」
男にとって、サンドスターやフレンズは不気味なものだった。
あらゆる動物を少女に変え、天候を始めとした物理現象を捻じ曲げ、セルリアンを生む要因ですらある。
薄気味悪く、気持ち悪く、受け入れがたい。
だからこそ、封じることにした。
フレンズを全面に禁じ、サンドスターの効果がある区域を封鎖しようとした。
つまり。
フレンズを指名手配し、サンドスターを隔離しようとした人物こそが、この男だったのだ。
(捻じ伏せてやる! 今度の今度こそ! あんな醜いものなんて、醜いものなんて!)
近くの木に手を付け、荒く息を吐き、憎悪を秘めた瞳のまま後ろを振り向く。
そこにいる、とある少女を睨みつけるように。
「必ず、全てのフレンズは滅ぼしてやる……ッ!!」
その時だった。
「なるほど、興味深いことを聞いたのです」
小さな悲鳴が出た。
男は辺りを見回すが、姿はない。
「これは少し話を聞いたほうが良いかもしれませんね、博士」
「そうですね、助手。ですが我々では交渉には向かないかもしれないのです」
「確かに。ここで事を荒立ててしまえば立場を失ってしまいかねませんね。ではどうするのですか? 博士」
「ふふふ、それには一つ考えがあるのですよ、助手」
声はすれども姿は見えず。ただ震えるしかなかった男は声を荒げた。
「どこだ! 隠れてないで出てこい化け物!! どうせお前たちの未来は滅亡しかないがなぁ!! お前らみたいな醜い奴らを生物なんて認めない。今度こそ絶滅させてやるぞ……。二度とその姿を見せられんように! 徹底的にな!!」
「そう慌てる必要はないのです」
声は後ろからした。
姿が似ている、白と茶色が特徴の少女たちがゆっくりと木の枝に着地する。
何かのフレンズだと、男は分かった。
「ところで、考えとは何なのですか? 博士」
「えぇ、どうやらアレはフレンズに対し強い嫌悪感を持っているようなのです。ならば、我々では交渉に不向きでしょう」
「……なるほど、そういうことですか」
二人の間では納得しているようだったが、男にとっては不可解以外の何物でもなかった。今までの話的に、目の前のフレンズはどちらも戦闘向きではなくどちらかと言えばブレインなのだろう。だとすれば、戦闘が得意なフレンズに拷問なりするのだろうか。
そう考えていた。
「別に、我々は手を出すつもりなんてないのですよ。そもそもお前の相手をするのは我々ではないのです」
「は? だったら誰が……」
「分からないのですか? なら、教えてあげるのですよ」
眉間に皺を寄せ、首を傾げる。
すると、後ろ、つまり街の方角から誰かが歩いてくるのが分かった。
『お前らみたいな醜い奴らを生物なんて認めない。今度こそ絶滅させてやるぞ……。二度とその姿を見せられんように! 徹底的にな!!』
先程怒鳴りつけた声が流れてきた。録音機を再生させて、聞かせているのだろう。誰がそんな真似を、と後ろを振り向いた時、男の顔色が変わった。
「さて、これがどういうことなのか話していただきましょうか。貴方は私たちに、サンドスターの管理はあくまでも人類を守るためと公表したはずですが……そこに個人的な理由が含まれているのだとすれば、話は変わってきますね?」
髪をオールバックにした、そこそこの地位にいる男だった。
そして、あの瞬間にとあるフレンズとともに世界へ声を発信した人物でもある。
背後で、声がした。
「考えたものですね、博士」
「えぇ、目には目を歯には歯を。ヒトにはヒトを。そうするのが得策なのですよ。何故なら──」
背中を突き刺す冷たい何か。それが方向性が違う決意であったことに、男は気づけただろうか。
そして、その純粋な決意のまま。
一人のフレンズが勝利宣言をした。
「我々は賢いので」
56
かばんの体から女王は消えた。そこにいるのは他でもない、自分のかけがえのないトモダチだ。
「かばんちゃん?」
ゆっくりと、少女は目を開ける。サーバルの顔を見て柔らかく微笑んだ。
「勝ったね、サーバルちゃん」
それを聞いてようやく実感する。
僅かに照らされたかばんの顔を見て息を呑むのが自分でも分かった。
そして、サーバルも輝かしい笑顔で。
「うんっ!」
力いっぱい頷いたのだ。
顔を出した太陽が世界を眩く照らす。
心地よい穏やかな風が辺りを吹き抜ける。
そこには、自分とかばん以外誰もいない。でも、帰り道には沢山の仲間が出迎えてくれるはずだ。
関係は以前と同じ様にはならないだろう。それに、これから解決しなければ問題も山積みだ。一つずつ解決するために、きっと多忙な毎日が待っている。
でも。
だけど。
誰もが笑っていた。
誰もが喜んでいた。
小さな小鳥の
後悔も疑問も、今はどこにもない。
時間の巻き戻しが出来たとしても、今のサーバルには必要ない。
そんな彼女の前に、飛ばされたかばんの帽子がパサリと着地する。
それを拾って、かばんに差し出した。彼女がそれを
やがて、サーバルは手を差し伸べて。
「帰ろ、かばんちゃん。今度は、みんなで一緒に!」
今度はかばんが元気いっぱいに頷く番だった。
「うんっ!」
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