第55話
ソフィアの一撃で吹き飛ばされたクリフォードは土煙の中から平然としながら出てきた。
「にゃ」
「んっ!り、リアン?」
俺はクリフォードから発せられた威圧感のようなものが膨れ上がったのを感じ、ソフィアの魔力をいつでもどんな状況にでも対応出来るように構える。
クリフォードは身体強化した身体で高く跳躍をした。
「サンダー・・・」
「んっ!?あ、アクア・・・」
俺はクリフォードの行動を読み、瞬時にソフィアの魔力制御を行う。ソフィアもすぐにこの魔法を理解し、魔法名を唱え始める。
「エッジ!!」「スフィア!!」
魔法はほぼ同時に発動された。
クリフォードが放ったサンダーエッジは、雷の斬撃を落とす風属性の魔法だ。その速度は発動した瞬間には終わる程に速く、対応がほぼ不可能に近い。
なので、俺はソフィアとその対策をしてきていた。
それが水属性魔法アクアスフィアだ。
中級魔法に入るが、使用用途が少なく、知っている者があまりいない魔法だ。
何故なら、アクアスフィアは水の膜を周囲に張るだけの魔法なのだ。
物理攻撃は通すし、エアロショット等の魔法も貫通してしまう程に弱いのだ。
本来は周りとの空気との遮断するために使われる魔法なのだ。
しかし、雷系の魔法に限っては、水の膜が雷を全て受け流してしまうため、対雷の最強防御魔法になる。
「っ!?」
アクアスフィアに当たったサンダーエッジは一瞬辺りを轟音と白い光で覆った。
ソフィアは目の前が真っ白に染まり、轟音に驚き、縮こまってしまう。
「にゃあ!」
「な、なんともない・・・」
俺の鳴き声でソフィアは自分が無事であることを自覚する。
今の衝撃でアクアスフィアは散ってしまったが、中にいた俺達は無事だった。
「これにも対応してしまうのだな」
クリフォードが着地をして、こちらに歩いてきながら言ってきた。
「本当に凄いな。こんなに君が強いとは思わなかったよ」
パリッ
クリフォードの周りには雷が迸っている。
俺はソフィアの魔力制御を密かに行う。
ソフィアもそれを感じ取り、いつでも魔法を発動出来るように構えてくれる。
「でも、これからは逃げれないよ。・・・雷電」
その言葉を口にした瞬間、クリフォードの姿が消え去る。
これはクリフォードのギフト『雷電』だ。恐らく自らを雷の魔法と同化することで脅威的な速度を生み出しているとみる。このことは試合で使っているのを見て、俺が気付いたことだ。
「な・・・にっ!?」
クリフォードはソフィアの背後に高速移動して、攻撃を仕掛けたはずだった。しかし、攻撃をしたはずの手は宙を切っていた。驚いた様子のまま周りを見ると、逆にソフィアから離れていてしまっていることに気が付く。
「んっ、アクアスピア・ダブル!!」
驚いているクリフォードに向かって、ソフィアは2本のアクアスピアを両手から放った。
「くっ!」
クリフォードは障壁を張ると共に、剣で1本のアクアスピアを弾き飛ばすが、同時に来たもう1本のアクアスピアが障壁を意図も簡単に貫き、クリフォードの肩を大きく抉った。
「・・・・・・・」
ソフィアはじっとクリフォードに注意を向けて、警戒をしている。俺もまた『ダブル』を撃てる準備をしておく。
「ぐっ、僕の敗けだ」
そう宣言したクリフォードはその場に座り込むようにして倒れた。肩のダメージは致命傷ではないが、これ以上は危険と判断したのだろう。
「勝者!!ソフィア・ミール!!!」
審判がそう宣言すると、会場は大きな歓声が上がった。
最後にクリフォードが『雷電』で離れてしまった理由は、アクアスフィアの散ってしまった水で、俺が密かに電気が流れる道筋を作り、更に雷を誘導しやすいように、風の魔力を雷の魔法に変換しやすい状態で停滞させていたのだ。
気付かれてしまう可能性があったので、ぎりぎりまで魔力制御を耐えていたのだ。間に合うかは賭けだったが、なんとか上手くいったようだ。
そして、止めに使った2本のアクアスピア。あれはソフィアと開発した俺達専用の共同技能『ダブル』だ。
アクアスピアは本来1本だけの魔法なのだが、俺とソフィアがそれぞれ別々に魔力制御を行い、ソフィアが1回魔法名を唱えれば、俺とソフィアが魔力制御した魔法が同時に発動するというものだ。
まぁ、その分ソフィアに負荷が掛かってしまうので、多用は出来ないのだが。今だってソフィアからあの匂いが結構濃くしてくるし。
(・・・これだけ魔力制御すれば当然か)
ソフィアは顔にこそ出してはいないが、早く着替えたいはずだ。
ソフィアは歓声をくれている観客に向かっていろんな方向にお辞儀をしている。
そして、クリフォードの方へと歩いていく。
「ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「あ、ああ、大丈夫だ」
クリフォードは倒れたまま返事をした。
「今治療しますね。ヒーリング」
ソフィアはクリフォードの側にしゃがんで、ヒーリングを掛ける。
優しい光はクリフォードの傷をみるみると治していく。
「・・・もう大丈夫だ。ありがとう」
「いえ」
クリフォードは立ち上がり、肩を回し状態を確認しながらお礼を言ってきた。
「それよりミールさんのギフトは本当は凄いな。僕の魔法障壁が無いもの当然かのようにすり抜けてきたよ」
「それをいうならクリフォードさんのギフトの速度も凄いですよ」
ソフィアとクリフォードはお互いに良かったところを誉め合う。
「それでは次は2年生の決勝を行います。地形を整え次第開始しますので、少々お待ち下さい」
審判の人がそう告げる。
確かに結構派手に魔法使ってたからアリーナの地面がぼこぼこになっている。
「僕達も下がろうか」
「ですね」
俺達はアリーナから控え室へと下がっていった。
☆ ☆ ☆
「それじゃあ僕はここで」
クリフォードは控え室の椅子に座り、そう言ってきた。
「行かないんですか?」
「もうちょっと休んでから行くよ」
「そうですか。それでは私はこれで」
ソフィアは早くパンツを穿き変えたいのか、急ぎ足で控え室を後にする。
「「「「ミールさん!!!」」」」
控え室から出た途端にソフィアは多数の生徒に囲まれてしまう。
「お前!あんなに凄かったんだな!」
「ねぇねぇミールさん!どうやってあんな魔法を使えるようになったの?」
「それより俺とお茶しないか?」
「何誘ってんだよ!!」
「ちょっ!?あ、あの!!」
ソフィアはわけわからずに慌てふためく。
「・・・・・・」
「んっ、り、リアン」
俺はこっそりと魔力制御を行う。
ソフィアは俺の顔見てくる。それに対して俺は静かに頷く。
「ごめんなさい!!エアロブラスト!!」
「「「「うわぁ!?」」」「「「きゃああ!?」」」
ソフィアは威力を抑えたエアロブラストで群がってきていた人達を吹き飛ばす。
「にゃあ!(行け!)」
「ごめんなさーい!!」
ソフィアは慌ててその場を走り去るのだった。
☆ ☆ ☆
「はぁ・・・はぁ・・・ここまでくれば大丈夫・・かな」
ソフィアは学校内の敷地内にある植え込みの茂みに隠れていた。
建物内は生徒がいるため、また囲まれる可能性があったので、この場所を選んだのだ。
「にゃ」
「あ、ダメっ!!」
俺はソフィアの肩から降りようとしたら、ソフィアから止める声が聞こえた。しかし、時既に遅く、地面に降りてしまった。
「・・・・・・・」
「こっち見ないで!」
ソフィアはそう言っているが、既にソフィアを下から見上げてしまっている。
俺の位置からはスカートの中がぎりぎり見えないぐらいなので、そこはまだいいのだ。
だが、ソフィアの太もも、主に太ももの内側に光る液体が垂れているのが見えてしまった。
「・・・・・にゃあ」
「うぅ・・・」
俺はそっぽを向くが、ソフィアは見られてしまったことがわかってしまい、恥ずかしさで顔を真っ赤にする。
「き、着替えちゃうから見張ってて」
ソフィアはそう言うと、予備のパンツを取り出した。
俺はこれ以上ソフィアの機嫌が悪くならないように、茂みの外へと気を張り巡らさせるのだった。
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