酒を飲む条件

 酒が飲めないわけではないが、会社の忘年会などに出席したことはなかった。

 人づきあいが悪いのかと問われると、そうとも言い切れない。酒が絡まない集まりだったら喜んで出席した。


 昔から大人数で集まって飲むのが嫌いだったわけではない。大学生の頃なんかは、サークルの飲み会にも出席していた。

 しかし、ちょっとしたきっかけがあって大人数で飲むことをやめてしまった。むしろ体が拒否反応を示すようになったのだ。今では問題視されている一気飲みやそのコールがあった時代だったからというものあるのだろう。


 それでもごく親しい人と少人数で飲みに行くことはあった。酒そのものは好きだし自分のペースで飲めるだからだ。

 そこでも問題があったので、とうとう人と飲みに行くことを拒むようになった。


 会社に就職をしたけれども、どうしても飲めないということで欠席させてもらっている。

 もちろん飲み会の場というのはコミュニケーションの場でもあるわけだから、どうしても他の同期たちに置いていかれてしまう。その穴を埋めるべく、酒以外では積極的に参加している。


 自宅のアパートでもほとんど飲むことはない。

 どうしても眠れないときくらいだろうか。


 周囲からは下戸ということで通している。幸いにして大学と就職先は飛行機の距離だったこともあり、俺のことを知っている人間がいなかったからだ。

 それでも楽しく日々を過ごしている。


 いや、充実していると言ったほうがいいかもしれない。

 俺には特殊な才能があることを大学時代に発見し、それをこっそり副業にしているのだ。

 音もたてずに相手に近寄れることを活かした仕事。

 そしてそれを表に出しては言えない内容のもの。


 平凡な、それでも楽しくサラリーマンをすることができるのは、この副業のおかげかもしれない。

 会社には親が金持ちだからということにして、豪華なマンションで贅沢な生活をしている。


 そして、自宅でたまに飲むときは副業の依頼を完遂したときだけ。

 このときばかりは興奮を抑えることができないのだ。

 美酒に酔い、そして眠りにつく。翌日、しがないサラリーマンを演じるために。

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