あの頃の出来事

 耳を傾けなくても蝉の鳴き声が鼓膜を刺激している。

 刺すような日差しの中、僕は水筒をぶら下げながら歩き回っていた。


 周囲を見渡すと、老若男女が同じようにしている。

 ここは公園。それもとても広い。


「ゲットできたー!」


 そんな叫び声を聞いた瞬間、その場所に人が集まっていく。

 僕もスマホ片手に駆け寄った。


 みんな自分も捕獲したいと近くをしきりに探索している。

 すぐに希望が叶った者、なかなか捕まえられずにイライラしながら歩き回る者。


 傍から見ると異様な光景である。

 しかし、当の本人は必死なのだ。


 僕はというと、割と早い段階でゲットした。

 そして公園の時計を見るとお昼だったので、水筒の麦茶を一口飲んで家に戻ることにする。


「ただいまー」


 おかえりと母親が出迎えてくれた。

 お昼ご飯は素麺らしい。


「このピンクのもーらいっ!」


 室内はクーラーが効いていてとても快適だった。


「宿題はちゃんと進んでるの?」

「まぁボチボチ」

「もー、また最後の方で手伝ってとか言わないでよ?」

「はーい」


 どうして夏休みに宿題を出すんだろうか。先生のことを恨めしく思う。

「食べ終わったらA君のとこに行くね」

「一緒に宿題をやりに?」


 曖昧な笑顔で答えて僕はそそくさと家を出る。


 ──というところで目が覚めた。

 スマホを確認すると8月16日の夕方5時。

 私の短いお盆休みは子供のころの夢を見るだけで終わってしまった。

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