唯一の生徒

 私立高校はピンキリだ。有名進学校もあれば所謂底辺と呼ばれるところもある。


 Y高校──入学試験に名前さえ書けば入れるところだ。この難易度からも程度は窺えるだろう。

 学級崩壊という言葉も世に浸透しているが、ここも御多分に漏れず。授業中にスマホを弄っている生徒など可愛いほうだ。数人で輪になって麻雀をする、化粧をし始めるなんてのは日常茶飯事、ゴミも散らかり放題だった。

 教師は注意しないのかと思うかもしれないが、そのような無駄なことはしない。意味がないと知っているのだ。授業の内容に力が入っているわけではない。誰も聞いていないのに頑張ろうとする者はいないし、新しく赴任した先生も目が死んでいる。

 学校全体としてやる気がないのだ。すべてが適当。下手に問題を起こす方が厄介という考え方だった。


 しかし、ある新入生は違った。

 どういう経緯かは不明だが、やる気に満ち溢れている子が入学したのだ。


 だからといって教師が頑張るわけでもなく、周囲が影響されるわけでもない。今まで通りの学校だった。その中で彼は異質な存在となる。

 いじめが起きるかといえばそうでもない。腕力も強かったし、陰湿なことをしても犯人を突き止めてコテンパンにしてしまうのだ。


 次の春が訪れる頃には少し状況が変わっていた。一部ではあるが彼の存在によりまじめに勉強しようとする生徒が現れる。少数派だから格好の対象になると思いきや、彼が味方についてくれたのだ。

 機能していない生徒会も、活気づく。

 荒れ果てていた校内は徐々に綺麗になっていった。教師たちも忘れていた何かを思い出したかのように、熱を入れ始める。


 全国模試──目も当てられない、いやまともに見ようともしていなかった結果にも変化があった。彼を筆頭に、それなりの成績を収めたのである。

 勉強ができない連中にとっては面白くない。しかし腕力でどうこうできることもできない。嫌気がさして学校を去っていく者もいれば、彼に教えを乞おうとする者も現れた。


 彼が3年生になった頃には、入学当初からは想像もできない程に変わっていた。生徒会だけではなく委員会活動も機能をしていたのである。

 先輩すら彼の態度に感化され、それなりの大学に進学できたのも大きかったのだろうか。近所でも当然のように噂となって、学校の偏差値も上がっていた。


 驚くほどの進化と言っても過言ではないくらい変貌したのだ。

 掃除の行き届いた進学校の様相を呈していた。さぞ教師陣も鼻が高いだろうと思いきや、面白くなかったのだ。

 何故か──理由は単純である。彼の言うことには誰もが素直に従うのに、教師の言うことには耳を貸さないのだ。授業ひとつとってみても、聞いているようでいて勝手に参考書を開いている。解らないことは彼に訊く。

 当たり前のように彼は生徒会の会長に就任していたのだが、自身の信念に従った活動をする。教師が意見を言おうとしても取り巻きが止めようとする。直談判しても聞く耳を持たない。


 傍から見たら素晴らしい学校のようでいて、実質彼の独裁だった。

 挙句の果てには気に入らない教師をもっともらしいことを並べ立て、理事会を通して首にしてしまう。


 そして事件は起きる。密かに団結した教師陣は、あろうことか彼を殺してしまったのだ。血に染まる教室、逮捕される教師──


 残された生徒たちによって学校が維持されたかというと、そうではなく、彼が入学する以前の状態に戻っていたのだった。

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