ショートショート集

山羊のシモン(旧fnro)

関節

 ボクは身体がとても硬い。だから毎年ある身体測定は非常に苦痛だ。前屈をするとき、測定値は決まってマイナス。それもかなり大きな数字で。だから、クラスのみんなからいつも笑われる。


 どうしてこんな思いをしなきゃいけないんだろう――


 この屈辱をどうすれば乗り越えられるのか。柔軟体操をすれば改善されるのかと努力してみたこともあった。しかし、なかなか望むような成果が得られず挫折。


 人間、結果が出ないと努力は継続しないものだ。

 とはいえ、できることなら身体を柔らかくしたい。それも楽に。


 そんな都合のいい話など、転がっているはずはないのだが、どこかに落ちていないかとインターネットで調べてみた。

 検索結果先のサイトを閲覧するも、お決まりのものがほとんどで、ボクの望む打開策からは程遠い。


 半ばあきらめかけていたのだが、これで最後と思ってリンクを踏んだ。

 そこに記載されている内容は、今までのものとはまるで違った。


『この水を飲めばいい』


 胡散臭さしか感じない。こういった怪しい商品に手を出すことだけはしないように常日頃心がけているからスルーすることにし、そっとパソコンの電源を落とす。


 溜息を吐きながら、そういえば酢を飲むといいらしいというのを誰かから聞いた気がするし、先ほどまでの有象無象の検索結果にもあったような気がした。


 ボクは台所へ行くと、酢を取り出した。

 しかし、適量が判らない。


 仕方ないから一気に飲み干した。

 気持ち悪い――だが、これで身体が柔らかくなるなら儲けものだ。そう思いつつ、寝ることにした。


 翌日、目覚まし時計に起こされて布団から起き上がろうとした。だが、何故か起き上がることができない。頭は起きているのに身体が寝ている状態なのだろうかと思うも、四肢の感覚ははっきりとしている。

 では、何故立てないのか――とりあえず足だけでもベッドから下ろせば大丈夫だろうと動かした瞬間、ボクは頭の中が真っ白になった。


 なぜなら身体中の関節という関節が消えてなくなり、手足があらぬ方向に向いていても痛みを感じていなかったからだ。


 そういえば、ボクは寝相が悪かったっけ――

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