22.知りたい





 私は何もかもが、気になってしまう。

 人や物に問わず、なんでも知りたいからいつも知識を欲していた。


 本、ネット、時にはその道の権威にまで聞きに行き、知識をどんどん蓄えていった。



 いつしかそんな私を世間はちやほやしたが、無視をしていつも通りに過ごしていれば、いつの間にか諦めた。




 しかし最近、私は焦っている。

 それは知りたいことの量に対して、私の寿命が釣り合わないせいだ。


 圧倒的に時間が足りない。


 食事や睡眠の時間をできる限り削ったとしても、残された時間はわずかだ。

 それまでに知ることの出来る知識の量なんて、たかが知れている。


 そんなの絶対に嫌だ。

 たくさんの本や知識を総動員して考えるが、未だどうにかする方法を見つけられないでいた。





 その男性と会ったのは、偶然だった。


「それなら私の実験の、被験者になっていただけませんか。」


 彼は不死の研究をしているという。

 まだまだ実験段階だというが、一定の成果は出ているとのこと。


 それは私にとって、願ってもない話だ。

 ふたつ返事で了承すると、早速彼の研究所にお世話になる事に決まった。




「ここがあなたの部屋です。」


 そう言って開かれた扉の先は、10畳ぐらいの大きさの部屋だった。

 ベッドと机や冷蔵庫など、生活するのに困らない最低限の家具や家電が置かれていた。


 私のために大きな本棚もあり、読み終わったら入れ替えてくれるという厚遇ぶりだ。


「実験をする以外の時間は好きにしてください。何か必要なものがあれば、おっしゃってくださればすぐに用意いたします。」


 職員の人が丁寧に部屋の説明をしたあと、お辞儀をして出ていく。

 1人になった部屋で、私は本棚の前に行った。

 並んでいる本は、すべて読みたいと思っていたもので、情報収集能力の高さに脱帽する。


 とりあえずその中から1冊取り出し、ベッドの上で読む事にした。

 実験がどんなものかは分からないが、この楽な生活は素晴らしい。

 それで不死になったら、私の望みも叶うので理想の場所だ。



 本をめくりながら、私は自分の運の良さに笑う。





 それからの生活は、充実したものになった。

 実験する時間は4、5時間で、それ以外は好きな風に過ごせる。

 実験も順調に進んでいるようで、何だか年を取るのが遅くなった気がする。


 ここに来たかいがあるというものだ。

 私は満足しながら、日々を過ごしていた。





 ここしばらく、何だか体がおかしい。

 私は体の不快さを感じながら、ベッドに横になった。


 すぐに疲れる事が多くて、1日の大半をベッドで過ごしている。

 読むはずだった本を開く気力さえなく、ただただ眠る。


 そんな私に気を遣ってか、実験も今は中断している。

 ありがたい事ではあるが、このままじゃ死を待つだけの生活になってしまう。



 だから私は、ここの責任者である男を呼び出した。


「最近、体調が悪いみたいですね。」


「そうなんです。もうベッドから動くのも辛くて。でも実験が進まなきゃ困るので、こうにかしてください。」


 私はベッドに横になって、男に訴える。

 彼は困った顔をしながら、言い聞かせるように優しい声で話しかけてきた。


「申し訳ないんですけど、最初に説明しましたよね。生活の面倒は見ますが、実験が必ずしも上手くいくとは限らないって。」


「ええ、そうですけど。」


 それは、不老までたどり着かないという意味では無かったのか。

 私はいつもより回らない頭で、ぼんやりと考える。

 彼が言っている意味が、よく分からない。


「それは失敗する可能性もあるという事です。だからあなたの今の状態は、実験による副作用でしょう。出来る限り手はつくしますが、万が一の場合もございますのでご了承ください。」


「それは。」


 どういう事だ。

 私はベッドから起き上がり彼を見つめる。


 何を言ったらいいのか、怒ればいいのか泣けばいいのか。どうしたら良いんだろう。


「出来る限りの手は尽くしますので、頑張りましょう。もしかしたら、不老の研究が成功するかもしれませんし。」


「はい。分かりました。」


 回らない頭でも分かる。

 彼が言っているのは真実ではない。


 それでも、どういうわけか私は何の感情も出す事は出来なかった。

 実験の副作用という事は明らかだったが、もう考える頭が残っていない。



 彼が部屋を去っていくのも分からなかったのだから、相当だと思う。





 1人残った部屋の中、ベッドに横たわって天井を眺める。

 シミの無い真っ白なそれを、眺めているだけで頭がおかしくなりそうだ。

 いや、もう頭はおかしくなっているのか。


 腕を上に伸ばして、私はただ笑った。



 何の感情も無くなったと思っていたが、どうやら違ったようだ。




 死ぬという初めて体験できる未来を考えて、とても嬉しいと思ってしまうのだから。





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