7.大変

冒険者になりたいと宣言した俺を見て皆が驚いていた。何故そこまで驚くかなのは、代々アストレア家の人間は冒険者になったことが無いらしく無縁の仕事。あれから父も母も反対しだし説得するのに時間が掛かった。二人には本当の狙いを語り「ああ~」と納得してくれた。お爺様には悪いけど帰ってもらった。元々、俺も冒険者を目指したい訳でもないし闘いとは無縁の暮らしがしたい。




「ソフィアも色々と考えていたんだな。関心するぞパパは。」




「今日に限っては貴方に同意ね。」




「今日に限って?酷くないか。」




「冗談ですよ。」




母と父は今日も仲良く会話している。俺もそれをじーと見ていた。




「これから冒険者に為るため頑張りなさいね」




応援される。まあ俺としては闘わずに平和を望みたい。そんな世界が何いつ来るかわからない。




そうしている内に長い年月が立ち、俺は八歳となった。それまでの日々、特訓をして戦闘技術を磨いていた。父に剣術も習わされたりしたが当然大変な日々だった。アリアの弓のセンスもそれなりに上がりますますと成長を遂げていた。そんなある日のこと。




「大変。ソフィアちゃん。」




「どうしたのそんなに慌てて。」




突然慌てながらやって来たアリアを見て首を傾げた。何が大変なんだ?と思った俺はアリアに連れていかれる。




「お願い!ソフィアちゃん。私も一緒に学園に連れてって!」




連れていかれた場所とはアリアの部屋。お願いとは学園のこと。俺は冒険者になるため「魔法を学んで来なさい」と父に言われた。だが、俺は魔法など学ばなくとも習得している。でも学園に通うことは俺も承知済み。理由は自由に出来る時間が増えるってことかな。




「急にどうしたの。落ち着いて、ちゃんと詳細を話して。」




どうしてこんなにも急いでいるのか?それには深い理由があるのだろうと察した俺はアリアを少し落ち着かせる。




「ごめんなさい。説明せずに急に言ったら戸惑うよね。あのね私、昔から冒険者を目指しているって言ってたでしょ。」




「言ってたね。もしかして。」




「うん。ソフィアちゃんも気付いていると思うけどこの前両親に言ったんだ。」




勇気を振り絞って自分の思いを親に話したと言うアリア。何か嫌な予感がする。




「でも反対されちゃってね。どうしたら良いの私。」




「そう気を落とさず頑張って主張していったら許してくれるって。ね?」




涙目な彼女を見て慰めてあげる。大切な親友の夢をどうにかして叶えさせてあげたい。でも俺には何一つやれることがない。どうすれば良いんだ.....あれだ!




良い提案を思い付く思い付く俺。成功する確率は低いけど一か八かやってみる価値はある。




「アリアちゃん!私に任して。良い考えがあるの。」




早速俺は作戦開始する。先ずは彼女の両親にアリアの夢を反対している要因を探りべく俺本人が聞いてみる事にする。何時も通りにアリア父の自慢話を聞きたいと嘘をついてアリアの両親のところへ向かう。あの二人はとても優しく俺に対しても本当の娘のように接してくれる。




扉の前に突っ立ったまま動かなくなる俺。何を緊張してるんだ俺は。これはアリアの為でもある。ここで俺が頑張らなければまたあの涙を見ることになる。それは嫌だ。悲しい顔なんて見たくない。そんな思いがありつつ扉をノックして開く。




「遊びに来たよ。」




「おお、来てくれたか。ようやく僕の話を聞いてくれるようになったかソフィアちゃん。」




「まあそんなところです。ははっ。」




苦笑いしながら椅子に座る。別に貴方の話を聞きたいわけでも無いんですけどね。この髭をはやし髪をオールバックにしてるおじさんがアリアの父だ。正直に言うと格好良くない。お父様の方がまだキリッとしていて格好いい。




「さて、最初は何の話をしようかな。」




アリア父の自慢話は数多く本人もどれから話すか迷うほど。最初から決めとけって言いたい。それから退屈な自慢話を二時間ほど聞かされる。長かったししかも何、昔は猟兵をしていたとか。本当の話なのか疑ってしまった。ようやく休憩をもらったことにそろそろ俺も動くことにする。




「あの───一つ話があるので良いですか?」




ゴクリと唾を飲み込み勇気を振り絞って言う。だがこの後予想外の事が起こる。




「娘の──アリアの話だろう。」




「え!?どうしてそれを。」




話そうと思った瞬間、アリア父は全ての事が最初からわかっていたかのように話してくる。いつからバレたんだ。




「ああ。最初からわかってたさ。先ず、ソフィアちゃんが僕の自慢話を聞きたいなんて言うところから何かあると思ってたんだ。」




つまり最初からですか。それをわかっていたのに俺は二時間ほども自慢話を聞かされたなんてやられた。ごめん...アリアちゃん。




と思った時、扉からトントンと音が鳴る。




「どうぞ。」




「貴方どうしたの?あらソフィアちゃん。」




「お邪魔してます。」




部屋に入ってきたのはアリア母。俺はとっさにペコリと一礼する。




「まあお前にも聞いてほしい話だ。」




不穏な空気が流れる。何これ?何がどうなってんの。俺は頭の整理や理解が追い付かない。ようやくかアリア父は一息吸って口を開く。




「ソフィアちゃん。僕はね、娘を冒険者にさせたくは無かったんだ。理由は命の危険があるから。」




真剣な態度で語り出す。確かに言っている事も一理ある。冒険者は命の危険が生じる仕事。下手をすれば死ぬ可能性がある。小さな女の子を冒険者として送り出すのは親としても心配する。俺だって反対するだろう。




「確かにわかります。でも娘さんは真剣に夢を追いかけようとしてます。私は良く娘さんの特訓成果を見てきました。」




今までアリアがしてきたこと、頑張ってきたことを教える。これで気が変わるかわからないが一様。




「「あの娘がそんな事を!」」




二人して驚く。




「そうです。アリアちゃんは家族に隠しながらいつしかあなた方に認めてもらう為に頑張ってきたんです!わたしが偉そうに言えることではありませんがもっと娘さんの事を信じてあげてください。」




必死に説得しようと焦りを感じていたのかアリアの代わりに思いを伝える。




........。




シーンと静かになる。俺は真剣だ。彼方も真剣な眼差しでこちらを見る。




「ははっ。負けたよソフィアちゃん。僕の完敗だ。」




「そうですね貴方。本当の事を伝えましょう。」




急に笑い出しこの場の不穏な空気が一変する。何々?本当の事を伝える?俺はまたしても理解が追い付かない。




「ごめんねソフィアちゃん。僕は本当は娘の夢を応援するつもりだったんだ。ただ、君を試したかった。君に娘を任せていけるかどうかを。」




俺は試されていたようだ。最初から許可出すつもりだったんなら最初からそうしてくださいよ。




「は、はぁ~。じゃあ認めてくれるのですか。」




「ああ。娘をこれからも友達として支えてくれ。君が守ってくれるだけで僕と妻は安心する。」




「わかりました!アリアちゃんをこれからも支え続けます。」




こうして長かった話と俺の計画は無事終わりを迎えた。部屋を退出して直ぐ様にアリアに伝えてやりたい俺は急ぐが後ろから「ちょっと待ってくれ!」と止められる。




「何ですか?」




「ソフィアちゃん。最後に一つ聞いても良いか?」




「はい────」




まだ何かあるのか。




「君はその年で大人ぽいな。昔から思ってたんだが.....嫌、すまん。君には難しい話だったな。忘れてくれ。」




突然そんな事を言われて少しドキッとする。もしかして中身がバレた!と一瞬感じたがそのような訳では無かったらしい。




でも中身は立派な大人であることは事実。もう少し言葉には気を付けないといけないなあ。そんな俺であった。




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