第92話 解放されるレイアの力<邪神剣聖>
「これどうなってるん? 中に入れんやん?」
「これは恐らく
「すごいにゃー、びくともしないにゃー」
結界をペシペシと叩くブリンク。すると、叩いた箇所のみが光を帯び、翠色の光線が放射される! 慌てて上体反らしで回避する猫妖精。
「うわっ、びっくりしたにゃー!」
「なるほど、攻撃に自動で反射する仕組みな訳ね。確かにこれじゃあ都市の中にすら入れないわね」
腕を組み考え込むルナティ。その時、上空からもの凄い轟音が聞こえる。連続で響き渡る爆発音の後、光線のように放たれる翠色の光。翼が貫通し、煙と共に奇声をあげたのはどこからどう見てもドラゴンだった。
「ルナティ、あれ、俺達出番なさそうじゃね……」
「凄いわね……
「
「ええ、
「うちも活躍したいにゃー」
ブリンクが残念そうな顔をする。
「まぁ、優斗、ブリンク。私達が倒す必要はないんじゃない?」
遠くで落下していく大翼竜を見つめつつ、ルナティが呟く。
「そうかもしれないけどさ、雄也達どこに居るか分からないしさ」
「あ、それよ。
「あ、そうか! 忘れてた」
「優斗それなんにゃー? 〝まがん〟って、おいしいのかにゃー?」
ルナティに言われて優斗は気づく。彼は巫女の力に準ずる瞳の力を得ていたのである。優希姿の時は常に自動解放状態だったが、優斗姿の時は常時解放は出来ないらしい。
「あ、ブリンク、食べ物じゃないよー」
「そうかにゃー、お腹空いたにゃー」
「じゃあ、土の国救ったら、美味しいもの食べようか」
「やったにゃー、頑張るにゃー」
ブリンクとのやり取りを終え、目を閉じる優斗。融合前、リリス戦でなんとなく
「行くよ、
十六夜に教わったやり方で魔眼を解放する優斗。ルナティの瞳のようにブロンドに光る瞳。視覚的に
「……お、西の方角……森の中に雄也が居るっぽい……うん、パンジーと……なっ!?」
次の瞬間、優斗が何かにぞくぞくっと身体を震わせ、青褪める。そして、ルナティも同様の反応を示していた。ルナティも夢妖精の力で妖気力を探知していたのである。
「え?
不思議そうに様子を見つめるブリンク。
「なに……この魔力……闇の魔力よね……でも……これ……」
「レイアさんだよね?」
ルナティと顔を見合わせる優斗。森の奥で感知した闇のオーラは、明らかにレイアの妖気力から放たれたものであった。
「レイアが闇魔法を扱うなんて想像も出来ないけど……確かあっちは
「ブリンク、行くよ!」
「わかったにゃー」
優斗、ルナティ、ブリンクは土精霊の森へ急ぐ ――――
★★★
「帰って来たぜ!
「只今戻りました、十六夜様」
「あれ? どうして支配人が一緒に居る訳?」
ところ変わってこちらは
「よう、無事に帰って来たみてーだな」
髭面のシュウジが和馬に向けニヤリと笑いかける。
「緊急事態でしたので、シュウジとプレミオにも来ていただきました」
緊急事態……そう、十六夜が夢見御殿の外に居る事自体が珍しいのである。
「どういう事? それに支配人がどうして十六夜さんと一緒に居る訳?」
支配人をよく知るウインクが尋ねる。
「いやぁーーーウインクちゃん。よくぞーーよくぞぉおおーー風の都から生きて戻って来ましたぁああーー支配人は嬉しくてぇーーー涙がちょちょ切れそうですーーー」
盛大なパフォーマンスをするような仕草でウインクの周囲を回る支配人。
「支配人、普通の口調でいいわよ?」
「いや、さっきのは本心だよ、ウインク。
途端に
「もうーー、あんた達速いからーー。疲れるからーー」
「ハーピーちゃんをもっといたわるのです!」
「プリーズカインド……」
「十六夜様、このハーピー達は敵に利用されていただけのようでしたので、敵の情報を教えてくれる代わりに匿うという交換条件の下、連れて参りました」
「そうでしたか……弥生、ご報告ありがとう……プレミオ」
「魔獣女王……
「え? プレミオさん知っているんですか?」
「私の情報網を嘗めてもらっては困りますよ?」
和馬の問いにプレミオが笑みをこぼす。十六夜がプレミオへ話題を振り、そのまま答えたものだから、和馬が驚いて支配人へ尋ねたのである。
「プレミオは
――待て待て闇ルートって……そんな相手を野放しにして大丈夫なのか?
と思う和馬。
「プレミオには俺が旅している頃も情報屋として世話になったのさ」
シュウジがこいつはそういう奴さ、と補足していた。
「それより和馬さん、ウインクさん。弥生と共に、今すぐファイリーさんを迎えに行って下さい」
「え? それってどういう?」
ファイリーは
「最悪の事態に備え、いち早く合流しておく必要があります。緊急事態故、こちらもシュウジとプレミオを呼んだ、という訳です」
「え? それってどういう……」
十六夜は目を閉じ、和馬達へ告げる。
「今しがた
★★★
「待って……本当に……レイアさん?」
「どうしてレイアさんがあんな力を……」
上半身だけ起こすパンジーと彼女を抱えたまま見据える雄也。レイアが放つ紫色の妖気は、まるで負の
「やっと本気になったか、銀髪侍女よ。竜剣、
ガディアスが右手の剣より紅蓮の火球を連続で放つ! が、レイアは漆黒の剣となった刃で火球を真っ二つに斬ってしまう。割れた火球が遠くの地面へ激突し、爆音と共に燃え上がる。すかさず地面へ左の剣と突き刺した状態で飛び上がる
「ほう、なぜ動ける!?」
ガディアスの炎刃とレイアの魔剣がぶつかりあう! レイアの足元へ向け奔った凍氷は、なぜか彼女の手前で途切れていた。
「貴方が氷刃を突き刺した瞬間、私の魔剣を地面に突き刺し魔力を
レイアがガディアスの刃を弾き、反動で離れた瞬間に鋒を向ける。
「
剣先から無数の刃が放たれ、ガディアスの腹部に直撃する。後方へ身体が吹き飛ぶが、地面へ突き刺していた左の氷剣を掴み、回転しつつ受け身を取るガディアス。竜人の腸からドロリとした緑色の血が滴り落ちる。
「光魔法の浄化が通じぬと聞いての闇魔法か。さすがだな、銀髪侍女。だが、まだまだだ」
そう言うと掌を自らの腹へ当てるガディアス。緑色の光に包まれ、みるみる抉れた腹の傷が塞がっていく。
「先ほど我々に施した回復魔法ですか」
「回復魔法……とは違うな。高位の竜人が持つ自己再生能力よ。そう簡単に小生を倒す事は出来ぬぞ。次はこちらから行くぞ!」
次の瞬間、ガディアスの姿が消えた。少なくとも雄也とパンジーにはそう見えた。
「なっ!?」
「レイアさん!」
レイアの背中が一瞬で斬りつけられ、紅い鮮血が放物線を描く。雄也の叫び声と同時に彼女がぐらつく。
「―― 竜神瞬殺」
「……今のは……目で追えませんでしたね」
血の溜まりに両膝をつき、背後に佇むガディアスを見るレイア。
「―― 竜神瞬殺、これが竜人の奥義だ。だが、これでもう終わりとは、残念だよ銀髪侍女よ。竜剣、
左の剣へ氷の力を溜め、止めを刺さんと両膝をついたレイアを斬りつけるガディアス。そして、気づく。レイアとガディアスの周囲に巨大な闇の魔法陣が展開されている事を。氷の刃を魔剣で受け止めるレイア。刀身から放たれた冷気は全て、魔剣の前に
「これで終わりと言いましたか?」
互いの刃を重ねた状態で銀髪侍女と竜人が視線を一瞬交差させる。
「ほぅ、それだけの傷を背中に負ってまだ動けるとはな。それにその魔剣。魔力を無効化するのか」
「そんなところですね。今の私には、炎も氷も効きません。先ほどの攻撃は避けきれませんでしたが」
「そうか……ではもう一度奥義を放つまで!」
そう言うと、ガディアスがレイアから距離を取ろうと背後へ飛……んだのだが、地面から突如染み出た黒い煙のような靄に絡み取られ、動きを封じられる。
「……なんだ……これは……」
「――私の
背中を斬られ、瀕死状態であってもおかしくないレイアが笑みを浮かべる。
「邪神の名に於いて、汝に滅びを与えん ――
刹那、魔法陣内部が轟音と共に漆黒の闇に包まれた。外部に居る雄也やパンジーからは何も見えなくなる。
「なに……あれ?」
「な、なにが!?」
雄也とパンジーはあまりの展開について行けないでいた。闇魔法を使うレイアと多彩な攻撃を仕掛けるガディアス。
「そうか……これが、
全身から緑色の血を流し、回復も追いつかない竜人。傷口から黒い闇の残滓が蒸気のように噴き出ている……。
「ガディアス……終わりですよ。死ンデクダサイ」
不適な笑みを浮かべるレイア。様子がおかしい。明らかにそこには殺意があった。
「そうか、闇に呑まれるか。だが、対峙してわかった。そなたは私の里を滅ぼした相手ではないようだ。無念……」
「レイアさん、だめだ!」
雄也が叫ぶ。このままガディアスを殺してしまえば、レイアさんが変わってしまう……そんな気がしたのだ。レイアは傷ついたガディアスへ向け、漆黒の魔剣を突き出した ――――
「終わりですね……」
レイアが目を閉じる。が、その瞬間、その場に似つかわしくない声が周囲に響き渡るのである。
「はーい、こんにちはーミュウミュウちゃんですー! 今日は竜人族の知将、ガディアスさんへインタビューしに来ましたぁああああ」
突然の招かれざる客に、その場に居る全員が息を呑んだ ――――
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