第79話 雄也サイド③《樹女王<ドライアド>との謁見》
植物の蔦に覆われた柱、一面緑色に覆われた廊下。天蓋は高く、透明な水晶で出来た窓からは光が差し込んでいる。ハートの形をした葉を持つ植物や、まるで会話をするかのように互いの顔を見合わせる巨大な花。左右に並ぶ植物を眺めつつ、雄也達はウルルに案内されるがまま城内へと入っていた。
「でもよかったわねぇー、私が居なかったらーー、中にはきっと入れなかったわよーー?」
ウルルが先導して前を行く。その後ろに雄也とレイア。相変わらず雄也の後ろにパンジーが隠れるように飛んでついて来て居る。
「はい、ウルル様ありがとうございます。私達だけでは入口の
「そうねぇー、貴方達だけでは無理だったでしょうねー。人間と
相変わらずおっとりした口調で毒を吐くウルル。
「そんな言い方しなくてもいいじゃんね、雄也」
雄也に聞こえる程度の小声で同意を求めるパンジー。
「あらー、そんなに怯えなくてもいいのよー? ヨウコの甥っ子ならー、きっと女王様も気に入ると思うわよー?」
「あ、それなんですが、ウルルさんは、本当に葉子叔母さ……お姉さんと契約して魔王を封印したんですか?」
「ふふっ……何、ヨウコったらーー雄也君にお姉さんって言わせてるのね? あの子らしいわ……ええ、間違いないわよー。ヨウコはね、元々巫女としての邪を払う力を持っていたから強かったわよ?」
「そうなんですね……それで
雄也は考える。あの和馬の父親であるシュウジや、叔母であるヨウコは、魔王を封印するほどの力を持った人間だったのだ。勇者を名乗ったり、巫女の名を継ぐ訳だと。
「んーーー、あの子が巫女を継いだのにはあの子なりの理由があったみたいだけどねー。まぁ、だいたい予想はつくんだけど……」
「お仲間の死……ですか……」
ウルルの発言に対し、レイアが続いた。
「あら……みんな既にその話も知っているのね? そうねぇー、サクヤは本当にいい子だったわー。妖精からも人間からも、同性からも異性からも好かれる明るい子だったの。魔王は無事に封印出来たけれど、あの子が居なくなった事で、みんな自然と離れ離れになってしまったわ……」
仲間を失う事がどれほど辛い事か……。雄也は考えた事もなかった。今までそんな大きな不幸に見舞われた経験がなかった。和馬は幼い頃母親が亡くなったと聞いている。優斗の母はシングルマザーだ。雄也は父親が単身赴任であるが、特に何不自由ない生活を送って来たのである。そんな自分が何を言っても、薄っぺらい言葉になってしまう……そう考えると雄也は思わず口を
「……さ、この上に女王様が居るわよー」
その様子を察してかウルルが立ち止まり、振り返る。目の前には女王の間に続く階段があった。
「貴方達が哀しむ事じゃないわよーー。さ、この話はもう終わり。女王に会うんでしょ? 行くわよー」
「ウルルごめん、そんな辛い過去があったなんて……。いつも毒舌ばっかだから僕そんな経験してるだなんて知らなかったよ……」
パンジーがウルルの前に出て頭を下げた。
「あらー、謝らなくていいのよー?
「ありがとう、ウルル!」
「まぁー、私の方が間違いなく強いでしょうけどねーー」
「もう……また余計な事を言う……」
余計な事を言われてもパンジーは雄也の後ろに隠れる事はなかった。ウルルとパンジーとのわだかまりが少し解けたようだ。一同は女王の間へ続く階段を上る。
「
「え? どらいあど?」
その名前に雄也が思わず反応した。なるほど、
ウルルよりも長く深い緑色の髪に、赤い色の花冠、透き通るようなライトグリーンの瞳。髪と共に茨のような蔓と木の枝が伸び、緑色の足と腰を覆う衣装はとても煌びやかだ。そんな中、二つの果実と下の部分は葉っぱによって隠されているのみ。果実はウルルよりは大人しめだが、より妖艶さを醸し出している。そして、何より溢れだす
「えっ!?」
バチーーン!――――
集まった木の枝が雄也へ届く直前、木の根が柵のように集まり、枝を受け止めていた。それは、パンジーの
「ウルルや……妾の前に人間を二度と連れてくるなと言った筈ですよ?」
「あらーー、でも困ってるんでしょー? 森が闇に
続けて無数の茨による棘が全員へ向け飛んで来るが、木の根による柵の範囲を拡大させ、ウルルが受け止めた。
「人間の力を借りる事はありません。どうせあの
――うん、シュウジさん今、エロ勇者呼ばわりされたね。あ、もしかして、さっき
ちょっと反省する雄也。
「あらーー、ドライアドはお堅いのねーー。いいじゃなーーい、シュウジはそれだけ強いんだしーー。女の子が寄って来るのも無理はないわよー? それに、ここに居る雄也君はぁー、あのヨウコの甥っ子よー?」
木の根による柵を収めた瞬間、今度は
「さっきからなんなのさ……僕ついていけてないんだけど……」
「ええ、女王はとんでもない力を持っているようですね」
パンジーとレイアがウルルと
「そうですか……どうりで何か感じるものがあると思ったら、あの巫女の甥っ子か。いいでしょう。こちらへ来なさい」
ようやく女王に近づく事を認められたらしい。
そして、雄也はようやく
「なるほど、では、そなた達が
「はい、そして、
落ち着いた樹女王は静かに雄也達の説明を聞いてくれた。
「
「あらー、そんな事言って、
――ウルルが樹女王の代わりに重要な事を言ってくれている気がする。
そう思いつつ、やり取りを眺める雄也。
「ウルル、余計な事を言うでない! いずれにせよ、土精霊の森はこの国の女王である私か、合言葉を知るドワーフ位しか入る事すら出来ぬ。まぁ、ここまで来てくれた礼だ。今日の宿くらいは用意してやる。宿に泊まったら自国へ帰るといいだろう」
そういうと、パンパンと樹女王が手を叩き、小さな羽根妖精がパタパタとやって来る。宿の手配をしてくれているようだった。そして、樹女王の威圧により、謁見は強制終了となったのである……。
その夜、
「ウルル様によると、この都市からさらに西に行くとドワーフの村があるそうですが、
「僕も土精霊の森なんて、行った事ないもんなー。あ、このウルリン茸のポタージュスープ美味しい」
レイアの発言に反応するパンジー。ポタージュスープを木製の匙ですくって飲んでいる。
「それに、
「土魔都市は
雄也の質問にレイアが解説してくれた。
「でも、土魔都市が攻め落とされたらって……そっちも危ないって事なのかな?
パンジーが『これはなんとかしなきゃだね、うんうん』と、頷いている。ピザのチーズを伸ばしながら。
「まずはその
結構思っていた以上に事は重大のようだ。
「え? それはヤバイね……でもドワーフは絶対合言葉を教えてくれないって……」
「そうですね……森まではウルル様に案内してもらうとして、合言葉は……」
雄也とレイアが何か方法がないかと考える。
「僕もドワーフに知り合いなんか居ないもんな……誰かドワーフの知り合い居ないかな……」
ピザを食べ終わったパンジーがひと息つきながら発言したその時……。
「ドワーフの知り合い……あ!」
「パンジー様! それです!」
雄也とレイアが顔を見合わせる。
「え? 何? 二人共なんなのさーー?」
パンジーだけがドワーフの知り合いを思い出せず、食後のレモネードを口にするのであった。
★★★
「はっ、はっ、はっ、はっ……」
肩で息をしながら逃げ惑う鎧を来た騎士達。空中から放たれる
「ライアスよ、早く儂の代わりに
「グレイス王よ! なりませぬ! 王を最後まで守るのが私の務め! 最後まで戦います!」
「ならぬ! 民は地下の隠し通路へ避難させておる、それに儂は旧都時代の王、既に王ではない。それに、
王は笑顔で分かってくれと男へ語りかける。
「しかし!」
「ライアス! これは命令じゃ! それに儂はそう簡単には死なぬよ!」
腰から剣を引き抜き、王が自らマントを脱ぎ捨てる。王の持つ刀身は
「御意! 王よ!
そう言うと、ライアスと呼ばれた男は玉座の裏にあった隠し階段より外へと出ていった。
「さて……そろそろかの……」
やがて王の間へ、柄に竜の紋章が施された冷たく青白い刀身と、紅蓮の炎を閉じ込めたような紅色の刀身をした二本の剣を持った、竜の頭をした威圧感を放つ男が入って来る。
「その姿、貴殿がこの旧都の王と見受ける。貴殿に問う。
「その問いに……儂が答えると思うか?」
「そうであろうな。ならば命が尽きる事になるが、よいか?」
「では儂の命を奪わんとする、そなたの名を聞いておこうか?」
「小生の名は……ガディアス。かつて栄華を築いた
「なるほど、相手とってに不足なし!」
そう言った瞬間、両者の剣と剣がぶつかりあった ――――
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