第28話 ユニコーンの涙

 負の妖気力<フェアリーエナジー>対策として、ブライティエルフ北に位置するブリンティス山へとユニコーンの涙を取りに行った雄也、パンジー、レフティ。果たしてそこに待ち受ける者とは……。


装甲修復アーマーリペア!」

「ありがとうーレフティ! もうー僕のフラワーコスチュームが台無しになるところだったよー」

「衣服の修復魔法って凄いですねー!」


「先日のグリーンスライムのような衣服を溶かす妖魔はもちろん、戦闘では装甲破壊アーマーブレイクのような装備を破壊する能力アビリティを使ってくる敵も居ますからね。修復魔法も重要なんですよ?」


 パンジーの衣装を修復してくれた、レフティさんが解説してくれた。


「でも、びっくりしたよー。ブルードリアードが襲って来るわ、ジャイアントベアは出てくるわ、ここ魔を寄せつけない森じゃなかったのか? って思ったよ」


 パンジーがあれはヤバかったよという表情をしている。パンジーの衣服はブルードリアードのねっこ鞭攻撃により引き裂かれてしまっていた。


「ジャイアントベアは妖獣の一種ですし、ブルードリアードは土の精霊ノームの眷属ですから、妖魔ではありません。魔を寄せつけないための仕掛けではないでしょうか?」

「それにしても熊はだめでしょ熊は」


 そう呟く雄也。


 熊出てきた時はさすがに死ぬかと思った雄也。気づけばパンジーが蔓縛りクリープバインドで足を縛り、レフティが光源弾ライトボムで倒してしまっていた。何気にこのコンビは優秀だ。雄也使えない子――――


「そういえば雄也……ジャイアントベア出て来た時……あれ何やってたの?」パンジーが疑問を口にする。


「あれは……死んだふり……」

「え? 何それ? そんな事したらそれこそ〝ふり〟じゃなくて死ぬでしょ?」


「いや、パンジー、人間界ではあれが常識なんだよ……ははは」

「はぁー本当にこれ・・が僕の使役主マスターでいいのかな?」


「いやいやこれ・・、言うなこれって! 物じゃないから!」

「ふふふ……お二人とも仲いいんですね」


 雄也とパンジーのやり取りを見て笑みを浮かべるレフティ。


「こ、こんなのと仲良い訳ないだろーー!」

「リンクと契約してなかったら契約してなかった……だっけ?」

「お、おう、わかってるじゃねーか雄也」


「あら、湖に着きましたよ」


 雄也とパンジーがそんなやり取りをしているうちに無事に湖へと辿り着いた。



「すいませーん、ユニコーンさーん、居ますかーー?」

「雄也、ユニコーン臆病なんでしょ? 出て来ないでしょ普通 」

「そうですね、湖の周りを廻ってみましょう」


 そう三名が湖畔を歩いていると……。


――あ、あのーー呼びましたかーー?


 なんか湖の傍の木陰からちらっと覗くような姿でユニコーンが顔を出しているではありませんか!?


――ちょ、ちょっと! 呼びかけに答えちゃだめでしょーー。ユニコーンは一般的に臆病って設定・・なんだからさーー!


 なんかもう一匹出てきたんですけど……。


「あのー、ユニコーンさん、大丈夫です、危害を加えるような事はしませんから」


――ほら、大丈夫みたいですよー。危害加えませんって言ってますし。


――いやいやいや、普通そう言うでしょ。安全ですよーって近づいたら危害加える常套手段でしょ!?


「ユニコーンさん、僕達、ユニコーンの涙が欲しいだけなんだ! 今僕の国と光の国ライトレシアが大変な事になってて、このままじゃ危ないんだ! お願いだよ! 君達の力が必要なんだ!」

「お願いします。負の妖気力フェアリーエナジーに打ち勝つにはユニコーンの涙が必要なんです!」

「俺からもお願いします!」


――ほら、やっぱり悪い方達じゃないみたいですよ……。


 ユニコーンが一匹近づいて来る。大きな角と白い毛並が美しい。琥珀色のつぶらな瞳をしている。


――あ、あのバカ! あれほど近づいちゃだめって言ってたのに!


 そう言いつつ結局もう一匹も近づいて来た。


「ありがとう、ユニコーンさん、僕は雄也、こちらは花妖精のパンジーと光妖精のレフティです」

「よろしくねーユニコーンさん」

「出て来て下さいまして、ありがとうございます」


「私はユニコーンのコハクって言います。後ろに居るのは姉のミドリです」


「あ、ユニコーンの姉妹なんですね、よろしくお願いします」


「こらー、勝手に紹介しないーー!」


 ドーンと軽く身体をぶつけるミドリと呼ばれたユニコーン。

 こちらも美しい角と毛並、瞳の色が翠色だ。


「はううう……姉さんごめんなさいー」


 ポロポロポロとコハクの瞳から涙が零れる。あれ? 何かコロコロって宝石のように転がってるよ?


「ちょ、ちょ、ちょっとーー! コハクだめでしょー、貴重なユニコーンの涙流しちゃだめでしょーー! 出て来るだけ出てきて涙流しませんーー! ……ってするつもりだったのにーー」


 地団太を踏む姉ユニコーンのミドリ。


――うーん、やっぱり固定観念を持ったまま異世界に来てはいけないね、うん。ユニコーンのキャライメージが崩れていくね。


「という事は、これがユニコーンの涙?」


 レフティもさすがに初めて見たようだ。


「はうう……そうです……大事に使って下さいね」


 ひと通り涙の粒を零したところで泣き止むコハク。


「まぁ、あんたたちがここまで来れたって事は少なくとも純粋な心を持っている証拠。ジャイアントベアやブルードリアードも倒して来たんでしょう? ユニコーンの試練は合格よ」

「え、じゃあ、あれって君達が用意したって事!?」

「ユニコーンは聖属性の聖獣だけど、元々土の精霊ノームとも親交があってね。あの子達には、悪しき者から森を守るためにこの森に住んでもらってるんだよ」


 パンジーの問いかけに姉ユニコーンのミドリが答える。

 ユニコーンも恐ろしい試練を用意したものだと思う雄也。


「何せ、ユニコーンの涙は浄化効果があるし、ユニコーンの角は最高の治療薬になるから、金儲け狙いの盗賊や、魔族も狙って来るんだよ。だからこういう魔を寄せつけない森の奥に住んでいるという訳なのよ」

「ユニコーンさんも大変なんですね……」


 と同情する雄也。


「分かったら、さっさとコハクの涙を持って行きなさい。それ一粒の時価、大きさ次第で金貨五枚から十枚にもなる代物だけど、金儲けに使おうなんて思わない事ね。土の精霊ノームの怒りを買うわよ?」

「大丈夫です。光の国ライトレシアを救う事以外には使いませんから、ご安心下さい」


 レフティが代表して答えた。


「それを聞いて安心しましたー、よろしくお願いしますー」


 ペコリと頭を下げるコハク。


「いやいや、あんたは頭下げなくていいの!」

「はぅうううう……姉さん痛いですーー」


 ポロポロポロポロ――――


――ああ、帰ったらリンクかレイアにこの国の貨幣価値聞いておこう……金貨と銀貨と銅貨があるみたいだから……だいたい予想金貨一枚が一万円としてさ、最低五万円の宝石が今、目の前でポロポロ零れ落ちてるって事だもんね……うん、これ以上の雑念は捨てよう、罰が当たりそうだしね。





 雄也達が戻って来た頃にはすっかり夜が更けていた。


「すっかり夜になっちゃったね」

「でもこの大量のユニコーンの涙みんな見たらびっくりするだろうね!」

「私は姉さんの事が心配です!」


 という事で、雄也、パンジー、レフティはユニコーンの涙をまほろばの所へ持って行く事にしたのだが……。


「え、ちょ、ゆ、優斗!」

「ブ、ブリンクーー!」

「姉、姉さん!」


 雄也、パンジー、レフティさんの目の前には衝撃の光景が広がっていた。


「嗚呼……天使が……天使が視えます……」

 布切れのようにヒラヒラになった空気を抜かれたかのような優斗。


「お腹が空いて力が出ないにゃーー」

 地面をゴロゴロ転がっていくブリンク。


「はぁーー優斗ぉおおおおーー私もう限界よーー」

 魔水晶をお腹に抱えたまま白目を剥いているライティ。


――おーーい、皆さーーん何があったんですかーー?


「あら、早かったのね! ユニコーンの涙は無事に取って来てくれた?」

「い、いや、まほろばさん、これは?」

「あ、あはははは……ごめんね、光妖精の正の妖気力フェアリーエナジーと優斗君の夢みる力ドリーマーパワーを抽出させてもらったんだけどね、ちょっと一日で抜きすぎちゃったかな? ……と」


 舌を出して、ごめんなさいと謝るまほろば。

 いやいやいや、これ三名共ヤバイでしょ。


「ま、まほろばさん! これ何もやってないですよね!?」

「え、レフティさん? 妖気力を少し貰っただけだから大丈夫よ、晩御飯食べて、明日になれば回復するから」

「妖気力を貰っただけですよね……わかりました」


――ええ、健全な俺でもさすがになんとなく言いたい事は分かりますよレフティさん。これ以上突っ込むのはやめましょう。 


「あ、ユニコーンの涙、無事に手に入りましたよ!」

 雄也が代表してユニコーンの涙をまほろばへ渡す。


「おぉーー! 凄い! こんなにたくさん! これは何とかなるかもしれないわ。三名共ありがとう。明日から早速、魔結晶作りに入ります! 今日はみんなゆっくり休んで下さい。隣の宿泊棟を使って下さい」

「はいはーい、メイドのメイアが宿泊棟まで案内しまーーす」


 メイドのメイアがどこからともなくノリノリで現れる。


「おーけーブリンクは僕が連れて行くよー」

「ではライティ姉さんは私が……」

「分かりました。優斗ーー行くよーー」


「俺はーー天使ーーーー」

「はいはい、分かった分かった……」

 優斗を引きずって宿泊棟へと連れていく雄也なのであった――――

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