第18話 強襲! ブリンティス村

 ブリンティス村は小さな村だ。

 村に入ると可愛らしい犬の顔をしたコボルトや、異世界風のローブのような格好をした女性の妖精人ピクサノイド、中には筋肉隆々の村人も居るのだが、あれはオークだろうか?


 入口付近に居た女性の妖精人ピクサノイドに話を聞いてみる。


「すいません、こちらの村で服を修復してもらえるところってありますか?」

「あら、人間がいらっしゃるなんて珍しいですね。服の修復なら、村の真ん中の噴水広場から西に少し歩くと村の診療所があるので、そちらで修復してもらえますよー。旅のお方でしたら村の北にある族長の家もよかったらお立ち寄りください」

「ご丁寧にありがとうございますー」


 リンクが代わりにペコリと頭を下げる。


「よし、じゃあその診療所とやらに行こうぜ」


 ファイリーが先に噴水広場方面に足を進める。後に続く一行。


 そして、噴水広場に近づいた時に、事件は起きた。



「お前が、この村の一番偉いやつか?」

「そうでございますが、何の御用でしょうか?」


「ええい、このインプマスター、『キャッツビーン』様が自ら出向いてやっているのだ。この村の者一同我等が主、ナイトメア様に忠誠を誓うならば、命だけは助けてやろうと言っておるのだ。早く忠誠を誓うと言うのだ」


「族長様、私が斬り捨てましょうか?」


 族長の横に居た耳が長いエルフらしき青年が声をかける。


「心配するな、お前は下がっておれ」

「はっ!」

「ぐぬぬ、何をこそこそ話しておる! お前等殺ってしまえ!」



 雄也達は噴水広場の手前より、事の成り行きを見ていた。気づけば村の住民達も噴水広場を取り囲んでいる。敵側は、大小数十体ずつのインプ、真ん中に黒いフードを被った猫顔の妖魔。族長側は族長とお付きのエルフらしき青年が一人だけ。数では敵側が多い。だが……。


「恐らく私達が出る幕もないでしょうね」


 レイアがそう言った直後、小さなインプ四、五体が族長へ飛びかかる。が、その瞬間族長の姿が消えた・・・のだ。


「どこを狙っておる」


 インプの後ろに現れた族長。一瞬驚いたインプだが、族長へ向き直して飛びかかる。


光気功ライトオーラ!」


 飛びかかった数体のインプは、族長が放った光を浴び、一瞬にして消滅・・した。


「な、なんだ今のは! お前等なにをやっている! かかれー!」


 次から次に飛びかかるインプの攻撃をかわし、光気功で倒していく族長……この族長……明らかに強い。妖精人なのだろうか? 見た目はおじいちゃんなんだけど、卓越した動きをしている。


「ありえなくない? あのじーちゃんパネー」

「す、すげーなあの族長……」


 優斗、和馬が関心した目で見ている。

 その時猫顔の妖魔、『キャッツビーン』が動いた。噴水の淵に丸くなって、たまたま寝ていた猫の顔をした妖精が居たのだ! 寝ていた猫妖精の首ねっこを掴み、ナイフをつきつける。


「よくも、俺様のインプをやってくれたな。でももう終わりだ。族長よ、こいつがどうなってもいいのか? はーーーーはっはっ」


 高らかに笑うキャッツビーン。が、族長は動じない。それどころか後ろに下がったお付きがなぜか手をあわせて拝んでいる。


「あれ、まずいんじゃないの?」


 雄也がリンクやレイアに向けて尋ねる。


「あ、あの顔見た事あると思ったら水晶エレナの塔に居た猫の妖魔にそっくりです! 確か、あの時倒した妖魔の名前もキャッツバーンだったはずです! シャキーンです!」

「いやリンク、確かに似てるけど、今思い出す事じゃ……」

「僕なら空中から矢で攻撃する事は出来るよ?」

「いえ、雄也様、パンジー様も、きっと大丈夫ですよ……なぜなら……」


 レイアがそう言い終わる前に自体は動く。


―― 誰にゃーーせっかくいい夢見てたのに起こすのはーー!


「え?」

 突然鳴り響く衝撃音! 周囲の見物客・・・からどよめきがあがる。


 首ねっこを掴まれてナイフをつきつけられた状態で、宙ぶらりんだった猫妖精……だったのだが、どうやら目を覚ましたらしく(てか、戦いの中噴水の側で寝てたんだね……)、そのまま両足を思い切りキャッツビーンの腹へ向け蹴りを放ったのだ。そのまま後ろに吹き飛ばされるキャッツビーン。


「な、なんなんだ貴様ーー」

「お魚の恨みにゃー! 光源弾ライトボムにゃー!」

 

 猫妖精の手のひらから光の弾が放たれ、起き上った瞬間のキャッツビーンに当たる。親分がやられたのを見て、慌てて生き残っていたインプが猫妖精に向かって攻撃をする。


水爆砲アクア--!」


 四方より、四体同時に放たれた水球――が、しかし、水球が当たる前に高く跳びあがっていた猫妖精は、そのまま残りのインプにも素早く攻撃をする。


水爆砲アクアは私の得意魔法なのに、あんな使い方は怒っちゃうです。ぷんぷんです」


 リンクは水爆砲アクアを使うインプ、マージインプが気に入らなかったらしい。


「くらうにゃー! 光印爪ライトクローにゃー!」

「ぎゃ、ぎゃしゃああああああ!」


 猫妖精の爪で引き裂かれるマージインプ。光に包まれたインプが、次々に倒されていく。


――それにしても、あの猫妖精、素早い動きでどんどん敵を倒していくぞ……。


「族長にしても、あの猫妖精にしても、強くない?」


 優斗がうんうん、と一人頷いていた。


「ブリンクよ、そのくらいにしておきなさい」


 族長が猫妖精に向かって声をかける。どうやらブリンクという名前らしい。


「妖魔よ、この子を怒らせたのが運のつきだったな」


 お付のエルフがご愁傷様という顔でまた手を合わせている。


「我々は、お前達の武力に屈する事もないし、逃げも隠れもせん。攻めたくば攻めてくるがよい。その場合は全力でお前達を迎え討とうぞ」


「な、なんなんだ貴様らー。どうにゃっても知らんぞー!」


 覚えてろよーーって逃げ帰る展開かと思ったのだが……。


「ぬおおおおおおおーー」


 気合を溜めるかのようなポーズを取ったキャッツビーン。どうやら様子が変わって来た……。キャッツビーン自身が黒い闇の球に包まれたのだ!


「ぐわあああああーー、村もろとも消し飛べにゃーー!」





「お嬢様! あれはまずいです!」

「くっ、あれはあたいの炎でも止められない!」


 ファイリーとレイアが叫ぶ中、なんとリンクが走り出していた。


 周辺に居た村の者もパニック状態だ。


「族長、まずいです、逃げなければ!」

「いや、それでは間に合わん!」

「にゃーー! ヤバイにゃーー」


「族長さん! 噴水の水、お借りします!」


――――!?


 族長の前に立つリンク。


「お主は?」

「説明は後です。皆様の光魔法……防御シールド系魔法を展開出来ますか?」

「むむ、何か分らんが承知した」

「族長! 来ます!」


 闇の球が大きくなり、目の前にまで迫っていた。


「行くぞ、邪を受け止めよ! 聖騎士の盾パラディンシールド!」

「悪しき者より我等を守りたまへ! 光源の衣ライトヴェール!」

「光のガードにゃーー! 光源の盾ブリンクシールド!」


「水よ、清き水よ、全てを統合し、邪を包みこめ! 魔を浄化し、無に還せ! 聖水包囲結界ブレスヴェールフィールド!」


 キャッツビーンは自身の残る全ての負の妖気力フェアリーエナジーを解放し、闇爆発を起こそうとした。つまり自爆だ。しかし、黒い闇の球が巨大化していき、族長達に届く直前、噴水の水が一気に黒い球を包み込んだ!


 リンクが噴水の水を使い放った魔法は、族長とお付のエルフ、さらにはブリンクが放った光の防御魔法全てを吸収した。光魔法の聖なる力に包み込まれた黒い闇の球は聖水包囲結界ブレスヴェールフィールドの中で爆発を起こし、轟音と共に、キャッツビーンは跡形もなく消滅する。消滅した後には、夢の欠片ドリームピースの結晶が落ちていたのであった――――



★★★


「いやはや、先ほどは助けていただき、ありがとうございました」

「我々の問題に巻き込んでしまって申し訳ない」


 族長とお付のエルフからお礼を言われる。流れで族長の家にそのまま連れていかれた雄也達。


 族長の家に向かいながら、旅の目的を告げる事となった。


「いえいえ、でもでも結界が間に合ってよかったですー。水爆砲アクア使われててちょっとぷんぷんだったんですよー。噴水のお水は後で戻しておきますねー」

「私がこのブリンティス村、族長、妖精人ピクサノイドのアラーダです。そして、横に居るのがお付のエルフのクレイですじゃ」

「以後、お見知りおきを」


 クレイと呼ばれたお付が会釈する。


「いやはや、しかし、お主があの有名な水舞すいまい蒼瞳妖精ブルーアイズとは。さすが名前に違わぬ実力の持ち主だ。光魔法を水で統合して包み込むなど、光妖精だけでは到底不可能な技ですわい」


「いえいえ、そんな事はないですー。あそこにたまたま噴水のお水があったんで、間に合ったんですよー。何もないところから水を作り出すのでは時間がかかりますからー」

「今回はあたいの出番がなかったな……」


 ちょっと残念そうなのはファイリーだ。


「それにしても炎刃えんじん赤瞳妖精レッドアイズ水舞すいまい蒼瞳妖精ブルーアイズが一緒に行動しているとは。それだけこの国も危機的状況という訳ですかな」

「いえ、ファイリー様とお嬢様……リンク様が一緒になったのは偶然です。たまたまこちらの雄也様と和馬様がそれぞれ契約した事がきっかけでして」


 レイアが補足する。


「偶然……ですかな……それは必然という事でしょうな」


 そういったのは族長だ。


「お主等がこうしてここを訪れたのもきっと運命なのでしょう。それと、服を修復したいと申しておりましたね。診療所を尋ねなさい。先ほどの夢の欠片ドリームピースも役に立つでしょう」

「え、それはどういう事ですか?」


 雄也が疑問に持つ。


――あれだけの光魔法を扱えるのだから、アラーダ族長やお付のクレイも修復魔法を使えると思ったのだ。しかも、夢の欠片ドリームピースが役に立つって?


「行けば分かりますじゃ。特にお主達人間の皆様はきっと驚く事でしょう」

「何かわからないけど服直して貰えるなら行くしかないよね」

「まぁ、そうだな。とりあえず向かうか」


 優斗と和馬が頷く。


 ……と、その時!


 バタン――と勢いよく族長宅の入口の扉が思い切り開いた!


「み、みつけたにゃーー! お前優斗かにゃーー!」


 雄也に向かって指差して来たのはさっき噴水広場に居たブリンクだ。さっき戦闘が終わった後別れたはずだったのだが……。


「え、えっと優斗は俺だけど……? でもどうして俺の名前を……?」優斗がこっちだよとブリンクに声をかける。


「あ、お前かにゃーー、よかったにゃーー! うちと契約するにゃーー!」

「え? え?」


 頭にハテナマークがいっぱいの優斗。

 他のメンバーも驚いてブリンクの様子を見ている。


「ど、どうしたブリンク! さっきの戦闘で頭でも打ったのか?」


 クレイが口にする。


「ち、違うにゃー、友達のルナティに言われたにゃー! 優斗と契約したら美味しいもの食べられるにゃーー!」


「え、今ルナティって言った?」


 契約者パートナーの名を聞き、優斗が驚いてブリンクを見るのだった ――――

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