白銀の竜と竜の医者

九里 睦

第1話

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 親愛なるキリシャへ



 キリシャ、しばらくの間ありがとう。

 君のおかげで楽しかったし、ボクのつばさも治ったよ。感謝してる。


 どれくらい感謝してるかって?そりゃあ、この身すべてを君にささげてもいいくらいだよ。あますところなく、すべてね。

 でも、君はそんなもの受け取らんって言うんだよね。知ってる。


 だからさ、その代わりに、君のことを広めてくることにしたよ。人間だけど、ものすごく腕の良い医者がカウパティの絶壁山にんでるってね。

 たとえつばさが穴だらけのボロぞうきんみたいになっても、生まれた時みたいにキレイにしちゃうんだぞ!って、言いふらすんだ〜。


 ふふふっ、しばらくしたら、君のところに竜たちがたくさん来るようになるよ?

 そしたら、君の研究もはかどるよね?

 君が竜化の魔法を完成させて、立派な竜になれたら、一緒に大空を自由に飛び回ろうね。ボク、待ってるから。


 じゃあ、行ってきます。あ、人間が来ても仲良くするんだよ!



  ルルより

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 朝の支度をし、さて書物を読もうと、本を取ったところ、こんな手紙が挟まれていた。


 ……覚えて間もないのだろう、つたない文字。力加減が上手くいかなかったのだろう、折れて散らばっている私の羽根ペンたち。


 ……またアイツはよく考えもしないで。


 初めて会ったときもそうだった。

 ボロボロの翼をしたアイツは『乱気流に巻き込まれて落ちちゃったんだよ!』なんて見え透いた嘘を吐いていたものだ。


 まったく、傷を見れば人間の魔法で負ったものだとすぐにわかるというのに。


 その時私は、竜にしては見栄っ張りなヤツだ、と思った。まぁ、ただそれだけで単純なヤツだったが。


 いつも楽しそうで、明るくて、真っ直ぐで……とにかくうるさいヤツだったな。


 アイツがいなくなったことで、これまで以上に研究が進むことだろう。ふふっ。


 いや、喜んでいたらアイツが帰って来たときに可哀想か。


 ……まてよ、そもそもアイツはここに『帰って』来るんだろうか?


 別にここはアイツの家ではない。私の家であり、研究所でもあり、竜の病院でもある場所だ。


 アイツはこのまま自分の棲家すみかに帰るのだろうか。アイツにだって、自分の棲家の一つや二つくらいあるはずだ。


 ……考えるのはよそう。研究の妨げになる。


 私は机の上の書物を手に取り、静かすぎる部屋でパラパラと読み始めた。



 その日、思ったより研究が進まなかったのは、なぜなのだろうか。

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