夕食前に運動を



 惑星ヴァルには、夕方というものが存在しません。

 魔法で朝と夜を作り出しているため、夕方という朝と夜の狭間が作る事ができなかったりするからです。

 お城での会議が終わったのは、地球時間で言うなれば、夕方になりそうな頃合いでした。


「会議は肩がこるというものだ」


 お城から出ると、ヴァリアッテ・スノーホワイトは肩を軽く回しながら、そうぼやきました。


「ご苦労様です」


 久能氏春がねぎらいの言葉をかけると、ヴァリアッテは久能の事をギロリと睨みました。


「久能は何も分かってはいない。何も、だ」


「えっと……」


「ヴァルを統べるのには必要な作業なのだ。たとえ、どんな政治を取り決めようとしているのか、ちんぷんかんぷんであったとしても、だ」


「分かっていないって認めちゃうんだ」


「うむ。分からぬものは分からぬ。それを公言して何が悪いというのだ?」


 ヴァリアッテはあっけらかんと言い放ちました。

 久能が唖然としてしまうほどに。


「分かる者に任せれば良い。おかしな方向性に進みそうならば、余が修正するまでだ」


 どう修正するのか。

 久能は興味がわきましたが、あえて質問はしませんでした。


「……さて、余は夕食が楽しみだ。急ぐぞ」


 会議の話はこれで終わりだと言いたげにそう呟くと、ヴァリアッテは走り出しました。

 久能は送れまいとして、ヴァリアッテの背中を追いかけました。

 久能は決してヴァリアッテには追いつく事ができません。

 ですが、追いつきたくて、全力を出すのです。

 それがヴァリアッテに対する礼儀であると同時に義務でもあったからです。


「……むぅ」


 結局、食前の運動とばかりに走るヴァリアッテを追いかけるようにして二十キロを走ったのでしたが、久能は最後まで追いつく事ができませんでした。






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