プリマヴェーラ

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第1話クラウドプラットフォーム プリマヴェーラ


人工知能を使った汎用クラウドプラットフォームを作り上げた。既存システムを簡単にクラウドに移行し、高いセキュリティを保証する。このシステムをプリマヴェーラ(Primavera)と名付けた。

プリマヴェーラは、ルネサンスのイタリア人画家、ボッティチェリが1482年頃に描いた絵画から採った。右端の緑色の神は、西風の神ゼフュロス。大地のニンフのクロリスに恋し我が物にしようとしている。そしてゼフュロスが触れると、クロリスは花神フローラに変身する。中央の女性はヴィーナス(アフロディテ)で、黒いミルトスの前に立っている。ヴィーナスの後ろにオレンジが描かれ、メディチ家の庭である事を示している。頭上のキューピッドは目隠しを付け、矢は三美神のひとりタレイヤに向いている。矢にあたったタレイヤは左端のメルクリウスに恋をする

三美神は、それぞれ、愛欲(エウフロシュネ)、貞節(タレイヤ)、美(アグライヤ)を表している。メルクリウスは、神と人間の間に道を作り、人間界へも春を告げる。メルクリウスがもつ杖は、ケリュケイオンと呼ばれ、神の使いであることを証明する。


クラウドプラットフォーム プリマヴェーラ

プリマヴェーラは、イル・マニフィコという俺の会社が開発し運用する、人口知能を使った汎用クラウドプラットフォームだ。既存システムを人口知能で分析し、安全な実行コードとデータベースの自動生成が出来る。実行コードは、フローラと呼ぶ中間言語で生成され、ラ・パルテ・アルシオネと呼ぶ完全にコントロールされた環境で稼働する。高いセキュリティレベルを持つシステムをパブリッククラウド上に構築出来るため、オリンピック直後から政府機関と製造業を中心に広く利用されるようになった。2025年現在、大小1000を超えるシステムをホストしている。

2020年当時、政府機関のシステムは大手SIが独占し、弱小な新参者が入り込む余地は全く無く、俺も政府機関で採用されるとは考えてもいなかった。しかし、国の研究機関JICCとの実証実験が契機となり、プリマヴェーラが広く知られるようになった。そして、2020年にJaRAM認証を取得、2021年にはPT4CSと呼ばれるNCSCの侵入検査にも合格し、政府推奨クラウドに認定された。公共機関のIT予算の縮小も重り、移行が容易で安全かつ安価なプラットフォームとして、プリマヴェーラが採用されるようになった。


プリマヴェーラの原型は、2017年に構築したAADO(AI Assist Development and Operation)と呼ぶシステムだ。そして、2020年にはJICCとの実証実験として、AADOの管理機能と分析機能を強化したMO-AADO(Mange Oriented-AADO)の共同開発と試験運用を行った。IT統括省の役人でJICCに理事として出向している中村がAADOのコンセプトを気に入ったことが、実証実験につながっている。

中村は、ちょっと変わった役人で、新しいポジションに着任すると、片端から関連分野の論文を読み込み、あっという間に専門家も驚くレベルの知識を身に着ける。また、ブラックな一面でも知られた人物で、ホワイト側に留まった事が不思議だ、とも噂されている。

実証実験が軌道に乗ると共に、プリマヴェーラは手堅いセキュリティレベルを担保できたが、危ない場面が何度かあり、その度に中村に助けらたれた。


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