死神、乱心する


 80-①


 現れたセンノウに対し、武光は声を荒げた。


「ちょっと周りの状況見て!! 今!? ハッピーエンドでめでたしめでたし一件落着大団円なわけやん? 何で今!? おいおい……空気読めやマジで。お前の話、今このタイミングで絶対せぇなあかんのか!? どうせ笑いのひとつも取れんような、しょーもない話やろうし、再来週さらいしゅうくらいでええやろ再来週また来いや!!」

「良いわけなかろうが!! ……って、止めろ!! 寄ってたかって『帰れ』を連呼するでない!!」


 武光は舌打ちすると、投げやりに言った。


「しゃーないなー……ちょっとだけやからなー!!」

「ふふふ……良かろう。この──」

「はい終了っ!! お疲れしたー!! みんな、打ち上げ行こうぜ打ち上げ!!」

「コラァ!!」


 人をコケにするにも程がある。

 センノウは地面に降り立ち、激しく抗議したが、武光は心底面倒くせーと言った表情かおである。


「何やねん!! 話も聞いたったし、もう満足したやろ!? 帰れッッッ!!」

「ふざけるな!! もう怒った、儂の死霊魔術であの巨竜を傀儡くぐつにして操り……貴様らをほふってくれる!!」


「ほう……? 貴様……あの巨竜を思いのままに操れると言うのか?」


 ロイの問いに対し、センノウは不気味な笑みを浮かべた。


「無論じゃ……儂の名はセンノウ!! 魔王軍一の死霊魔術師ぞ!! この地に留まる亡霊共よ……我がもとに集えぃ!!」


 センノウが両手を頭上に掲げた。


 他の者には見えていなかったが、異界渡りの書の『三つの特別な力』の二つめ……『普通の人間には見えない存在の姿が見えたり、声を聞けるようになる力』を授かった武光には見えていた。


 ……センノウの頭上に、この戦場で散った人間や魔物達の魂が、引き寄せられている。

 引き寄せられた魂が、融け合い、混ざり合い、一つになって膨れ上がってゆく。


「させるかアホが!!」


 武光はセンノウのヤバい元◯玉を阻止すべく、センノウに突撃しようとした……だが!!


「ぬんっ!!」

「わーーーっ!?」


 ロイが、武光の前に立ち塞がり、武光目掛けて屍山血河を振り下ろした。急ブレーキをかけた武光の鼻先僅か数cmを屍山血河の切っ先が通り過ぎる。


「大丈夫ですか、武光君!?」

「ななな……何すんねんコラァ!!」


 派手に尻餅をついた武光はリョエンに助け起こされながら激怒したが、ロイはどこ吹く風と言った様子で背後のセンノウに言った。


「おい貴様、あの竜を操れるのだろう? ……やるなら早くやれ。そして我らを襲わせろ」


 ロイの口から飛び出した言葉に武光達は唖然あぜんとした。アホなのか、コイツはアホなのか。


「ロイ将軍、貴方は……貴方は何を言っているのです!?」

「……貴様、自分のしている事が分かっているのか!!」

「そうですよー!! 貴方バカなんですかー!?」

「ロイ将軍、監査武官として……私は先程の行動を重大な利敵行為として報告させて頂きますよ!?」


 リヴァル戦士団の四人はロイを睨みつけたが、ロイはまるで動じない。


「まぁそう言うな、私はな…………死ぬのが怖いのだ」


 武光達は更に唖然とした。『死ぬのが怖いからまめ太を操って自分達を襲わせろ?』 何を言っているんだ……アホなのか、コイツはアホなのか。


「ハァ!? 何やねんそのボケ……どうツッコんでええか分からんわ!!」


 重度の厨二病 + アブないクスリの常習者 + すぐ刃物を持ち出す変態 = 重度のアブない変態!?


 あかん、コイツマジであかん奴や……武光の中でのロイの『ヤバい奴度』が天井てんじょう知らずで上昇してゆく。


「ふっ……貴様には分かるまい、《死の領域》に囚われ続ける私の苦しみは……感覚が鋭敏になり過ぎて、周りの全てが遅く見え、眠っていても木の葉が地面に落ちる程度の音で目を覚ます……視界をくもらせ、音をさえぎる為のこの仮面を着けなければ、日常生活すらままならぬ。このままではそう遠くない内に、私の体は限界を超え続けた反動で衰弱すいじゃくし、死に至る」


 そう言ってロイは背後のまめ太を見上げた。


「この巨竜ならば……私に死力を絞り尽くさせ、私を死の領域から生の世界に引きずり戻してくれるはずだ」

「あ、アホかー!? そんなに死力を振り絞りたかったらすみっこで素振すぶりでもしとけっ!! 千回でも二千回でも、死にそうになるまでやったらええやろがー!!」


「……20万」


「はい!?」

「……20万回、屍山血河を振るい続けてもダメだった。やはり、命のやり取りという極限状態でなければ死力を振り絞りきって死の領域を抜け出す事は出来ぬ」


 武光は再びセンノウに攻撃を仕掛けようとしたが、屍山血河の切っ先を向けられ、そこから一歩も前に踏み出す事が出来なかった。あと一歩でも前に出たら即座に斬り捨てられる。理屈ではない、本能がそう告げている。こうなったら……


【まめ太、センノウを踏み潰せーーー!!】


 武光に言われて、まめ太は足下のセンノウを踏み潰そうとしたが、ロイはセンノウを脇に抱えて跳躍し、踏みつけを回避した。


「おい、早くしろ……殺すぞ?」

「ひっ!? よし……出来たぞ!! 行けい、《怨霊玉おんりょうだま》よ……あの巨竜に入り込み、我がしもべせ!!」


 センノウによって作り出された禍々しき霊魂の塊が、まめ太に向かって放たれた。

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