巨竜、現る


 71-①


 破壊神砲の第二射が結界塔を直撃した。


 砲弾の直撃を受けた塔中央部より上の部分が、一番稜堡と五番稜堡の間……北西門の上にガラガラと倒れ込む。


 その様は、あたかも腹を貫かれた巨人が、前のめりに倒れ伏すかのようだった。


 塔が倒れ込んで来た北西門は、破壊神砲の第一射の砲弾により、城門の上の城壁がごっそりとえぐられ、もろくなっていた事もあって、倒れ込んで来た塔を支える事など到底不可能だった。

 押し潰された城門と、倒壊した結界塔によってしょうじた大量の瓦礫がれきが、一番稜堡と五番稜堡の間に、なだらかな坂を作り出す。

 その坂を、白の鎧を着た騎馬隊が凄まじい速さで駆け上がり、城内に突入してゆく。


 白銀の死神、ロイ=デスト率いる第十三騎馬軍団である。


 遅れを取るなとばかりに、後方で待機していた歩兵部隊も坂を登って次々と城内に突入してゆく。

 ほどなくして城壁の内側から悲鳴と怒号、金属同士が激しくぶつかり合う音が聞こえ始めた。

 その一連の様子を見ていた武光はイットー・リョーダンを背中の皮鞘かわざやに収めた。


「ちょっと俺行ってくるわ、皆はベンさんを安全な所へ隠しといてくれ」

「ま、待ちなさい!!」


 スタスタと歩き始めた武光の前にミトが立ちふさがった。


「どこに行こうと言うのです!? まさか……また逃げようという魂胆じゃないでしょうね!?」

「アホか!! イットー・リョーダンで南門をぶち破って魔物共の逃げ道を作りに行くだけや」

「なーんだ、それなら…………って、待ちなさい!!」


 再び歩き始めた武光の腕にミトがしがみついた。


「あーもう、何やねんな!?」

「それはこっちの台詞セリフよっ!! 魔物達の逃げ道を作りに行くってどういう了見なの!?」

「どうもこうも……今、北東門・南東門・南西門の三つの門は、それぞれ別働隊・傭兵隊・主力部隊が攻めてるし、北西門は破壊されたっぽいから今の所無事なのはあそこの南門だけや。俺の国には『窮鼠猫きゅうそねこむ』ってことわざがあってやな……追い詰められたネズミは猫を噛むねんて」


 ミトの問いに対し、武光は自信満々に答えた。


「考えてもみぃ、逃げ道が完全に無かったら、敵も死ぬ気で徹底抗戦するしかあらへんやん。そうなったら味方の被害もどエライ事なるやろ? でも、もしその場から逃げ出せば助かるんやったらきっと敵も城を捨てて逃げ出すわ、もし俺やったら間違いなく逃げる!!」

「胸を張って言う事ですかっ!! 何堂々と情けない台詞を……」


 キリッとした表情とは対照的に、思いっきり情けない台詞を吐いた武光を見てミトは呆れた。


「だけど……ビビリで小心者の貴方が言うと、めちゃくちゃ説得力があるわね……」

「敵が混乱してる今が好機や、奴らが追い詰められて徹底抗戦の意思を固める前にやらなあかん。南門を開けたら、この森にも魔物共が押し寄せて来るやろうから、今の内にベンさんを安全な場所へ移動させ……うおおおっ!?」


 突如として、城の方から轟音が鳴り響き、少し遅れて地響きが起きた。破壊神砲の第三射か? 


 ……いや、それにしては発射の間隔が短か過ぎる。不審に思って城の方を見た武光一行は一瞬言葉を失った。


「なっ!? 何やアレ!?」

「そ……そんな、まさか」

「ちょっと、嘘でしょ……」

「あ、あれは本物なのか……本当に……」 


 城壁の向こう、天を裂くような凄まじい咆哮と共に、巨大な竜がその姿を現した。

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