宝剣、叱咤する
45-①
ボゥ・インレ防衛戦から四日が経過し、姫様と私、武光さんとナジミさん、そして
カラマク寺院は、地の神 《ラグドウン》を
武光さんとナジミさんはボゥ・インレを出る前にどうしてもカラマク寺院でやっておかなければいけない事があるらしい。
「よし、じゃあ行くか」
「ハイ、武光様」
「ん? どないした、ミト……?」
「私……行きません。ここで……待ってます」
姫様はその場から動かない……いや、動けないと言った方が正しいだろう、足が……
「……そうか。じゃあちょっと待っててくれ」
武光さんもそれを察したのか、それ以上何も言わなかった。
武光さんとナジミさんの姿が寺院の奥に消えると、姫様は近くの石段に力無く腰掛けた。普段なら、〔王家の姫君ともあろうお方が地べたに座るなんて!!〕と、お説教の一つもさせて頂く所だが、今の落ち込みぶりを見ると、そんな
……あの日、ボゥ・インレは敵の侵入を許す寸前だったが、すんでの所でリヴァル戦士団が援軍として駆けつけてくれた。
駆けつけたリヴァル戦士団は二手に分かれた。主戦場である南口には、リヴァル=シューエンとキサン=ボウシンが、そして敵に突破される寸前だった東口には、ヴァンプ=フトーが、体力を消耗しきって動けない姫様に代わって救援に向かってくれた。
そして、リヴァル戦士団の活躍により、コウカツ軍は一掃されたものの……姫様の騎士、ベン=エルノマエは帰ってこなかった。
コウカツ軍を撃退したあの日からずっと、姫様は酷く落ち込んでいる。無理もない、ベンが命を落とし、遺体まで持ち去られてしまったのを、姫様は自分が『街を守れ』と命令したせいだと思っている。
ある意味、それは正しい。同じ言葉でも、王家の者と一般人が発するのでは言葉の重みがまるで違う。
そして姫様はその重さに押し潰されそうになっている……しかし、これは責任ある立場の人間ならば決して避けては通れない道なのだ。何としても乗り越えて頂かなければならない。
私は姫様に呼びかけた。
〔……姫様 ……姫様? ……姫様!!〕
返事がない、まるでしかばねのようだ。
〔………………………ふんぬっ!!〕
「おぶっ!?」
私は
「カヤ……いきなり何するのよ!?」
〔姫様、私はもう見ていられません!! 一体いつまでそうやってイジけているおつもりなのです!!〕
「だって……私の命令のせいでベンは……っ!!」
〔ええ、そうですよ? 彼は姫様の命令を最後まで守り通して死んだんです〕
私の言葉に、姫様は力無く
〔姫様の発する言葉はその辺の
「それは……」
〔今の姫様を見たら、きっとベンさんはガッカリしますよ、『こんな塩かけられたナメクジみたいな奴の為に命を落としたのか』と……だから、姫様は……例えどんなに辛くても苦しくても、常に
「……そんな……私には無理よ……」
〔私が支えます。いえ、私だけじゃありません。夫 (になる予定)のイットー・リョーダン様、武光さんやナジミさん……みんなで姫様を支えます。だから、前を向いてください。どうか……ベン=エルノマエの誇りをお
長い長い沈黙の後、姫様は顔を上げた。その目には少しだけ生気が戻っていた。
「…………分かったわ、頑張ってみる」
王家の姫君と言えど、まだ少女である。完全には割り切れない部分もあるだろう。それでも姫様は前を向いてくださった。そして、それと同時に姫様のお腹が “ぐぅぅぅ〜〜〜” と鳴った。
王家の姫君と言えど、人間である。お腹が空くのは生きようとしている証拠だ。姫様が照れ臭そうに笑う。
「もう……肝心な所で締まらないわね……これじゃあ武光みたいじゃない」
〔ぷぷぷ……し、失礼ですよ姫様。想いを寄せる殿方に〕
「……うらぁっっっ!!」
私は姫様に思いっきりぶん投げられた。良かった、姫様はもう大丈夫だ……投げられた私は大丈夫じゃないが。
地面には尖った石が散乱している……めちゃくちゃ痛そうだ。
「……おっと」
地面に落ちる直前で、私は何者かに受け止められた。
〔貴方は……〕
私を受け止めてくれたのはリヴァル戦士団のヴァンプ=フトーだった。
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