聖剣、伝説を語る
15-①
皆の視線の先……広場の中央、四方に立てられた八角形の柱と、柱の間に張られたロープで囲まれた一画……その中央、地面から斜めに突き出た直径7cm程の木の杭に、刀身の根元まで深々と突き刺さった一振りの剣があった。
先程の声はその剣から発せられたものらしい。
〔
剣の声を聞いた戦士達が、誰に言われるでもなく、剣の前に整然と並び
〔我が名は聖剣、イ──〕
「ぎゃあああああ!! 無理無理無理!! 腰が折れるー!!」
〔うるさいっっっ!!〕
聖剣に怒られ、歴戦の戦士達の刺すような視線にようやく気付いたナジミは、慌ててサソリ固めを解き、聖剣の前に跪いた。
武光も腰を押さえつつ、ナジミの隣で
「うっわ……何なんアレ? 剣が……
「フンだ。武光様には教えてあげませんよーだ!! ベー!!」
「悪かったって、ほんまゴメン!!」
「知りません!!」
すっかり困り果てている武光をよそに、古の聖剣は再び言葉を
〔我が名は──〕
「プッ!!」
聖剣の名を聞いた武光は思わず噴き出してしまった。
〔そこの者……何が
「えっ、いや……めちゃくちゃ強そうな名前やなーって……」
〔フン……我が名は、今は失われてしまった
戦士達の間からどよめきが上がるが、
「ふーん、ほんならこの剣あったら余裕やん」
「あっ、触っちゃダメですっ!!」
聖剣に近付き、柄に手を伸ばした武光をナジミが慌てて止めた。
「何でやねんな?」
〔我には……呪いがかけられておる〕
「の、呪い……?」
〔そう……古の勇者にしてこの国の初代国王、アルト=アナザワルドは、古の魔王を我が力によって討ち果たしたものの、自分の死後、あまりに強大な聖剣の力を悪用せんとする者が現れる事を非常に恐れた。そこで勇者は我を容易く抜けぬように、この杭に突き刺した〕
「いやいやいや……木の杭に刀身の根元まで剣突き刺すとかどんなゴリラやねん……」
〔そして更に、古の勇者は我に強力な呪いをかけた。不用意に我を抜こうとした者に、自ら死を望む程の地獄の苦しみを与える呪いをな……〕
それを聞いた武光は、ダッシュで聖剣から離れて、ナジミの後ろに隠れた。
「ど、どうしよう……ちょっと指先で触ってもうた……」
「わーっ!? ちょっ……何で私の
〔我の呪いを解ける者は、正しき心を持ち、武勇に優れた選ばれし者なり!!〕
「……と、言うわけだ。ようこそ、勇敢なる戦士諸君」
戦士達の前に、鎧を着た太った男がやって来た。男は聖剣の前に立ち、居並ぶ傭兵達に言った。
「私の名はアクダ=カイン……このセイ・サンゼン守備軍の軍団長 兼 代官である。まぁ、簡単に言えば、諸君らに命令を下す立場の者だ」
アクダは跪く戦士達を品定めするかのようにジロリと見回した。
アクダの陰湿そうな笑みを見て、嫌な気配を感じた武光は、ナジミに小声で話しかけた。
「俺、何かあのオッサン苦手やわ」
「アクダ様はこの街の守備軍の軍団長で、この街の政務を司る代官様が急死を遂げられてからは代官も兼任していると聞きますが……黒い
「黒い噂……?」
「はい、汚職や賄賂……最近では軍令を盾にした民間人からの略奪行為も行なっているという話も聞きますし……前任の代官様が急死されたのはアクダ様の仕業という話まであるくらいです」
武光は再び視線をアクダに向けた。人を見た目で判断するのは良くない事だが、視線の先の男は、ナジミの語った噂話が本当だと思えるような嫌な雰囲気を
「ちょうど全ての戦士達が
アクダは一つ
「……諸君らには、正規軍に先んじてあの山に突撃し、血路を切り開いて頂きたい」
アクダの言葉を聞いて、戦士達の間にざわめきが走る。
「無論……タダでとは言わん、最も多く武功を立てた者には……この聖剣を授けよう!!」
〔貴様っ、何を勝手な……我を
「とんでもない。彼らは皆、この国の危機に立ち上がった正義の心の持ち主ばかり。それに彼らはいずれも劣らぬ
〔ぬう……〕
「さぁ……我こそはと思う者は名乗り出るが良い。どうした……まさか
「……我々が行きます!!」
「ヴァっさん!?」
互いに顔を見合わせて、なかなか立ち上がろうとしなかった戦士達の中で、リヴァルが真っ先に立ち上がった。
それを見た他の団体も、リヴァル達に遅れを取るまいと次々と立ち上がってゆく。
「いや、先陣は我ら蒼月傭兵団が切らせて頂く!!」
「一番手柄は俺達烈火紅蓮隊のモンだ!!」
「我々国土を守る会にお任せください!!」
次々と立ち上がってゆく周りの団体を見て、ナジミは背後の武光を
「武光様、立たなくて良いんですか!?」
「えー、でもこれ立ち上がって『俺がやります!!』って言った瞬間に周りの連中が『どうぞどうぞ』って言うダチョウパターンちゃうやろな?」
「何言ってるんですか!! あー、もうっ!!」
武光は思った。
うーわ、最悪や。コイツ勝手に立ち上がりよった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます