第11話~冬の出来事3~

しばらくすると奈緒子が降りてきた。

「もしかして私の部屋にいる時、写真見た?」少し恥ずかしそうな顔をした奈緒子が僕に聞く。

「す、少しね」明らかに動揺を隠せずに声がうわずんでしまった。


奈緒子は「はぁ~」ため息をはいた後「そ、その、キスの写真は、思い出というか、別に意味があって残してるんじゃないから...」と頬を赤らめて僕に言う。


「あの少年は誰?」僕はとっさに聞いてしまった。


奈緒子は驚いた顔をして「え?自分の小さい頃の写真見たことないの?」


今度は僕が驚いた顔をして「え?自分の小さい頃?ってことはあれ僕?」


奈緒子は頬を赤らめて下を向いたままうなずく。


僕も顔がカーッと赤くなり、下を向いてしまった。しかしあれが僕と言われても何も思い出せない。

それもそのはず、自分の幼少期の写真は特に無く、幼稚園のアルバムくらいしかなかったからだ。しかもアルバムさえ興味がなく一度見たことがあるかないかも記憶に残っていないほどだ。


けれど、あそこに映っていた園児が僕だと分かると、なぜか嬉しかった。


奈緒子は下を向いたまま「ほら!早く豊の家に行くよ!」と僕の手を引っ張り歩き出した。


「はいはい」僕は頬から思わず笑みがこぼれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る