便利屋
カチッと音が鳴ってライターに火が点る、咥えた煙草に火をつけて一服する、その内にヤカンから甲高い呼び声が聞こえてくる、深く椅子に腰掛けると立ち上がりが面倒臭い、火を止めて茶筒に入れたインスタントコーヒーの粉をマグカップへ少し降り入れお湯を注ぐ、終わりかけた粉を見るたびにため息が出てしまう。
薄く入れたコーヒーと煙草で一息つけていると、電話が鳴った。
「はい、便利屋億前です」
「ああ億前さん、田中です田中、電球の買い出しと取り替えお願いできる?」
田中さんは老齢の女性で、旦那さんを亡くしてから一人で暮らしている、電球の取り替えで怪我をしてから依頼で面倒を見るようになった。
「田中さんお久しぶりです、分かりました電球を買ってお宅へ伺いますね」
「あら、お金はいいの?」
「立て替えておきますよ、そっち着いたらください」
他に必要な物もまとめて聞いてメモを取り、財布を持って家を出る、何軒か店を回って買いそろえて田中さんの家へ向かった。
「田中さん来たよ、上がってもいい?」
聞こえるように玄関で声を張る。
「ありがとう、上がってちょうだい」
田中さんの返事を聞いて上がらせてもらう、切れているのは台所の電球だと言うので、付け替えるついでに買ってきた物を整理して棚にしまう。
「終わったよ田中さん」
居間にいる田中さんに声をかけると、お茶を進められたのでご馳走になる。
「億前さん悪いわね、これ代金と謝礼よ」
礼を言って受け取り失礼ながらも改めさせてもらう。
「田中さんこんなにいらないよ」
案の定多目に謝礼金を入れていたので、多い分は返した。
「いつもお世話になってるのに悪いわ、受け取ってもらえない?」
「いいのいいの、俺は便利屋なんだから、俺にくれるより旨いもん食って長生きしてよ」
帰り際にどうしてもと言われて、お菓子を何個か受け取った。
田中さんの優しい笑顔に見送られれば、価千金の仕事だと来る度に思う、健康に長生きして欲しいと思える人だ。
家に帰ると携帯電話にメールの着信を知らせるランプがついている、開くとまた仕事の依頼だった。
「世直・前半・方自・川上虎五郎」
パソコンを立ち上げ通信ソフトで情報屋を呼び出す。
「億前ちゃーんどうもー」
「仕事だ、川上虎五郎の情報を探れ」
見るからに軽薄な男にさっさと用件伝える。
「相も変わらず塩対応だこと、そいつならヤの字の頭だよ」
「有名人か?」
「いんや別に、薬物で上納金を作ってる尻尾ちゃんね」
なるほど、世直と書かれる訳だ。
「居場所を教えろ」
「こいつがターゲットね、最近ヘマやらかして引っ込んでるみたいだけど大丈夫かなーん?」
誰に言ってるのかと睨み付ける。
「居場所は送っといたよん、そんじゃ頑張って」
パソコンを閉じると、携帯にデータが送られてくる、準備をして仕事道具を持つと俺はまた家を出た。
「随分護衛を用意しやがって、思ったより汚しちまったよ」
床に転がる死屍累々の山の上で川上虎五郎の首を掴み上げる。
「てめぇ!その仮面、お前殺し屋の万か!」
「そうだよ、最後になんか言っとくか?」
「待て!殺すな!金を払ってやる!依頼金より何倍もだ!どうだ俺に雇われればもっと有意義に使ってやるぞ!」
首を持つ手に力を込める。
「ちょっまっぷつ」
そのまま力を込めて首を握りつぶした、もう喋ることのない頭を無造作に投げ捨てて、仕事完了の旨を依頼人に知らせる。
依頼人はその人の死を喜び、報酬に色をつけた、その額を受け取り俺は帰路につくため夜の闇に紛れた。
帰ってまた一杯コーヒーを入れた、今度は粉を多目にして濃くする。
次の依頼は犬の散歩なんかいいなと願って眠りについた。
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