追いつ追われつ

「私は好きに殺して好きに生きるのよ、そこらにいる人と変わりゃしないわ」


 今まさに仕事を終えた私の目の前に、銃を構え真っ直ぐな目を向けてくる男に話しかける。


「それは違う、お前は猟奇的な殺人鬼だ、守るべき市井の人々とはまるで違う!」


 この男は本当に馬鹿馬鹿しい、どうせ私はこいつから簡単に逃げることができる、殺すことも然り。


「あんたも懲りないね、私はいつでもあんたを殺せるし逃げて何処にでも行けるのよ」


 殺した相手の首を切り落として袋に入れる。


「何で殺さないかって言えば、その価値もないからよ、金銭的にも精神的にも」


 男からぎりりと音がするほど歯を噛み締める音がする。


「お前の主張はまるで意味をなさない、俺はお前を捕まえて法の裁きにかけるだけだ」


 相も変わらず下らない男だ、帰り支度ができたからお話に付き合うことにする。


「大体あんた何でいつも一人でくるのよ、どんなのでもいいから連れて来なさいよ、どれもこれも案山子以下だけど」

「そ、その指摘はまあその通りだが、そもそもお前が追うものを悉く殺しているから、皆怯えて追わなくなったんだ!」

「馬鹿ねあんたは死んでないじゃない」

「俺は何があっても諦めないからだ!」


 大きくため息をつく。


「あんた私の気まぐれに生かされてるだけなのに偉そうね」

「お前が何故か俺を殺さないから、お前は俺に追われ続けるんだ」


 仕事も終わったし殺すつもりもないので、私はこの男のお喋りに付き合ってやることにした。


「さっきも言ったけど、あんたはお金にならないし殺しても私の得になる事がないの」

「殺せるのならば殺せばいい、死ぬつもりはないが俺は追うのをやめるつもりもない、ウザったいのならそうすればいい」


 私は男に座れと促した、応じたので向かい合って座る。


「私は好きなように殺して生きているけど、それはその生き方が性に合ってるからで、殺さないと生きていけないやつとは違うのよ」

「だがお前は思うままに殺しているじゃないか、何が違うって言うんだ」


 煙草に火をつけて煙を吐き出す。


「生き物は日々他の生き物を殺して生きているのよ、私は他の人より人を多く殺しているだけ」

「それは法を犯し生き物の尊厳を貶める行為だ、そもそも人は人を殺さない、お前は例外だ」

「馬鹿ね、あんただって生きてるだけで間接的に様々な影響を与えているのよ」

「それはどういう意味だ」


 男は鋭い眼光で睨み付けてくる、本当は今にも襲いかかって私を制圧したいのだろうが、実力の違いが分かっていて手を出せないのだろう。


「あんたが生きるために必要な物は全部他の誰かにも必要なものでしょ?生きてる限り誰かから奪い続けているのよ」

「意味のない詭弁だな、そんなものは殺していい理由にならない」

「殺す理由なんか必要ない、頼まれたり思い付いたり気ままに生きているだけよ、他の誰かも好きなことだけやって生きてくもんなんでしょ今は」

「俺は阿呆だからお前の主義は理解ができない、でもお前がとんでもない阿呆なのは確信を持っている、縛について法の裁きを受けろ」

「互いに阿呆なのは同意ね、でも力のある阿呆は我が儘に生きられるのよ」


 私が椅子から腰をあげると男は躊躇なく発砲する、銃弾は後ろの壁にめり込んだ。


「次は外さない、逮捕する」


 銃を構えたままの男に一つキスを投げてやる。


 男は瞬間発砲したが、私は小さく身を捻って避けて靴に仕込んである煙玉を踏み潰した。


「また追いに来なさいよ、その時は私を全否定できるといいわね!」

「他の誰も追わなくなっても俺は悪を追い続けるぞ!お前が安心して眠れる日は捕まるまでないと思え!」


 窓を蹴破る、高層ビルの高さも私にはまるで意味をなさない。


「ベッドルームに遊びに来てくれる事を楽しみにしているわ、正義の盲信者さん」

「怯え震え待て、邪悪な自由主義者」


 窓から飛び降りて鬼ごっこはまた始まる、互いの狂気が混じり合う時間は夜の冷たい空気に溶けて消えていった。

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