奇妙な喫茶店の日常
ましろ
①はじまり
都内、某所。
賑やかな通りをなんのその、向かう場所は裏通りの隠れ家系喫茶店。ここはアパートに内接したビルの二階にあった。
–––現在でも失踪した人気ショコラティエ“
ビルの合間をするすると抜けるように少年は走る。液晶に映された人物とだいぶ雰囲気は違うが、顔はよく似ていた。彼はその喫茶店から出てきて、近くの飲食店に配達をしているようだ。
この喫茶店のあるビルは五階から十階までがアパートとなっており、一階と二階が喫茶店のスペースになっている。入り口には
どこからどう見ても“メアリー”とかいう横文字が似合いそうな金髪碧眼の店員『山田さん』が、飾られた花壇の手入れをしていた。
木で作られた温かみのある店内は老若男女を問わず人で溢れている。厨房からこっそりと顔を出す背の高いコックさんは『ウド』、肩よりも長く髪を伸ばしており後ろで一つに結んでいた。
切れ長の瞳が特徴的で、言葉にはなりがある。
「店長、ざわくんいつ来ますが」
振り向いたアジア系美人の女性は、手元に“日刊競馬”と書かれた新聞を急いで隠し、ついでにタバコの火もコッソリと消している。もちろんウドにはバレバレだったが、店長は素知らぬ顔で件の少年について考え始めた。もっとも、思考にかかった時間は5秒もなかったのだが。
「そうね……うちのパティシエさんは配達から……面倒だわ。山田、ざわに電話しなさい」
「かしこまりました店長」
気品のある仕草で、山田さんは電話をかける。
「犬、すぐ来なさい」
コンマ1秒後、テラスから現れたのはピンク色の髪の原宿系の少年だった。ウドと似たようなコック服の上から、モッズコートを身にまとっている。
「お呼びですか
そして勢いよく山田さんに叩きつけられ–––歓喜の声が聞こえたが気のせいだろう–––裏の倉庫へと落ちて行った。
「すみません、あまりにも気持ちが悪かったのではたき落としてしまいました」
優雅にそう語る彼女の手を、いつの間にか現れた黒服の男が拭いている。
何事もなかったかのように店長は競馬新聞を開く。
頼る相手を間違えたと言わんばかりに、シェフは仕事に追われる。
虐げられたことに対して微笑みを隠せない原宿系のパティシエは、その余韻に浸っている。
–––カランコロン
今日も一人新しいお客様がやってくる。
「「「「いらっしゃいませ、ようこそ喫茶店“cachette”へ」」」
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