第44話 二人の魔王
「ほれ、時間切れじゃ」
「あ、くっそ~。ダメだった~」
トウヤの目の前でヒュドラを形作っていた水が崩れ地面に消えていった。結局トウヤは十分以内にヒュドラを倒す事は出来なかったのだ。
「フォフォフォ、惜しかったのう。もう少し時間があれば倒せそうじゃったではないか」
「いやそうでもないよ。魔力も気力ももう無いし、あのままやっていたら最終的には負けてたでしょ」
トウヤは地面に刺さっている投げナイフを回収しつつ答える。投げたら絶対命中や気力を乱すなどの効果はポイントを抑えるために一回きりで使えば消える効果にしておいたので今はただの投げナイフだが、ストックにしまっておけばまた別のアイテム作成の時に再利用できる。なのでポイント節約のために回収していた。
アイテム作成はトウヤの魔王としての能力のため、使うたびに魔力を少しずつ消費している。これはキューブも同じなのだが、今までは戦っている時は周りに仲間がいたのでアイテム作成を多用したり、魔力回復する時間を稼ぐ事も出来たのだが、今回は一人で戦っていたのでそれも出来なかった。
「完全にそっちのペースに流されて無駄に力を消費させられ続けた感じだよ」
「ホホ、負けからちゃんと学んだか。よいよい、小僧はどんどん強くなるじゃろうな」
ミズシマが嬉しそうに髭を撫でる。
「だいぶその小僧が気に入ったみたいだな」
力の魔王カイリキーが近寄ってきた。
「おうオヤジ、この小僧まっすぐな目をしてダンジョンを守るために必死に戦っているのをみていたらな、ついつい世話を焼きたくなってしもうてな」
「そうかそうか。ミズシマが気に入るんだから悪い奴じゃなさそうだな。なあトウヤ、短剣の使い方は誰から習ったんだ?」
「父親からだよ。近所の森からモンスターが出てきた時に戦えるようにって」
別に隠す事でもないので正直に答える。
「それでか、攻めるためというよりも、身を護るための構えだったのは」
「え、そうだったの?」
「ああ、敵の攻撃が来た時に防いだりカウンターをしやすいだろ? でもそこかわりにことらから攻めるには動きずらい形になっているな」
カイリキーが遠くから見ていて感じたトウヤの戦い方について語りだす。トウヤすら理解していないトウヤの短剣の使い方の解説をしてくれる。ほんのちょっと戦いを見ただけでそれが分かるとはさすが力の魔王といった所か。
「それと途中から短剣の二刀流で戦ってただろ、あれは完全に自己流だな。本番で慣れないことすると命に係わるぞ?」
ついでにトウヤのダメだった部分もアドバイスされた。
「もし望むなら俺が双剣での戦い方を教えてやるぞ」
カイリキーも自ら教えようと思うくらいにはトウヤの事を気に入っていた。トウヤは育てるに値する原石だとこの二人は感じたのだった。
「それは嬉しいけど、その前に試合は、ラピスとシンデレラはどうなったの?」
トウヤは他の試合が気になった。自分が負けたので他の二人の内どちらかが負けてもこちらの負けでスピリットファームが奪われてしまうし、それ以上に二人がケガをしていないかが心配になった。
「おう、二勝一敗でそっちの勝ちだよ。よかったなトウヤ、約束通りウチの軍はトウヤが支配している間はスピリットファームに手を出さないぜ」
ラピス達は勝てたようだ。シンデレラの方を見ると元気にピースサインを出す彼女と、片方の羽が途中で折れ服もボロボロ。杖を付いてヨロヨロと歩いているツチミカドが見えた。シンデレラにケガはないようだ。その事にホッとする。
ラピスの方もケガは無いが、なんだか表情が険しい。
「ラピスお姉ちゃん顔が怖いけどどうしたの?」
試合中に何かあったのだろうか。それともトウヤが負けた事を怒っていたりするのだろうか?
考えていてもわからないのでトウヤは聞いてみることにしてみた。
「あのトラさん、優勢だったのに他の二つの試合が終わった瞬間に自分から負けを宣言したのよ。勝てたというより勝たせてもらったって事が気に入らないのよ。あ~悔しい」
「そうなんだ、となるとちゃんと勝てたのはシンデレラだけなのかな?」
自分の戦いに集中していて他を見る余裕なんてなかったのだが、シンデレラの試合はどんな感じだったのだろうか。ツチミカドの様子を見る限りではもしかして実力で勝てたのではないだろうかと思える。
モンスター合成でシンデレラを上級モンスターにした時はラピスより少し強いだけだったのだが、その後でトウヤが気の存在を把握したため、作った時には認識されていないに気の力がプラスされ、しかもそれがシンデレラと相性が良かったために本来ならモンスター合成で出来ないはずのトウヤ以上の実力を持ったモンスターとなっていた。
その結果、シンデレラはツチミカドに実力で勝利する事が出来たのだった。
「そう、シンデレラちゃんは勝てたの。すごいわね」
ラピスがしゃがんでシンデレラと同じ目線になり彼女の頭を撫でる。シンデレラの勝利を聞き、すぐに気持ちを切り替えたようだ。
「しょうり~」
シンデレラが自慢げにしている。
「おい、お前本気で負けたのか? 子ども相手に手を抜いてやったんじゃなくて。ブハハハ」
「フォフォフォ、前の偵察でもオヌシボロボロじゃったのう」
「あっれぇ~。もしかして体鈍ってる? デスクワークばかりで修行を怠ってたんじゃないの。ククク」
「くっ」
そんなシンデレラのむこうでツチミカドが仲間の魔族達に言いたい放題言われている事をトウヤは気付いた。
(アイテム作成一回分の魔力は回復しているな)
「あの~よかったらこれ……」
トウヤはそんなツチミカドの元に向かい、体のキズを直すポーションを作り出して渡した。カイリキー軍は戦った相手だが、なんだか悪い連中には思えないのだ。それがヨロヨロと杖をついている姿を見ていると何かしてあげたい気分になってきたのだ。
「おや、これは何ですか?」
毒でも盛るつもりなのかと警戒されたのだろうか、ツチミカドは意味が分からないと言いたげだ。
「ただの治療用のポーションだな」
トウヤからポーションの瓶を受け取ったカイリキーが自分の手に一滴垂らして舐めた。
「おやいいんですか? 私達は別の魔王軍、スピリットファームの事以外にも敵になるかもしれませんよ?」
「別に僕は魔王として活動する気はありませんから。それにミズシマさんと話していて、なんだか敵だとは思えないんですよね。だから気にせず」
「ありがとなトウヤ。ほらツチミカド、せっかくの好意だ。貰っとけよ」
「オヤジがそう言うなら……」
ツチミカドがポーションを飲み干すと、さすがに服は元通りにはならなかったが、それ以外はキズも塞がり折れた羽もちゃんと元通りになっていた。
「トウヤ殿、ありがとうございました。飲んだだけで即座に回復、さぞ珍しく高価なポーションではないのですか?」
「あ、そんなに気にしないで下さい。能力で出したものなんで」
ミズシマにはすでにトウヤの能力はバレている。それにカイリキーもステータスを見る能力はあるので隠した所で意味はない。それに下手に隠すとツチミカドが気にしてしまうかもしれない。
「なあトウヤ、俺と手を組まないか?」
ツチミカドが回復したところでカイリキーが提案してきた。そんなトウヤの視界の隅に手紙のようなマークが浮かんだ。これは何かのイベントが発生した合図だ。何度かイベント発生を知らせる中で、戦闘中や修行で集中している時など、知らせたら邪魔になるタイミングがある中で、ナビがイベントの発生を邪魔にならず、すぐに知らせる方法としてこうした形で知らせるようになった。
「手を組むってどういう?」
言いながら手紙のアイコンに集中する。
「義兄弟の
「仲間として一緒に戦おうって事だよ。スピリットファームの周りは全部俺の支配地だ。トウヤにウチを攻めるつもりはない。ウチの軍も約束だからスプリットファームは攻めない、なら手を組んで一緒に外からの侵略に備えた方がいいだろ。ま、今のトウヤ達だと頼るような戦力は期待できないから共闘する事はだいぶ先の話だろうがな」
「他の魔王が攻めてくる事があるの?」
「あるぞ。魔王は支配地域の量や配下の量でランクが増えるからな。野心家の魔王なら他の魔王の土地を責める事はよくある。そしてそんな野心家な魔王はこの近くにもいるからな」
「そうなんだ、それはどんな魔王なの?」
襲ってくる魔王がいるのならトウヤはカイリキーと手を組むことは悪い事ではない気がしてきた。
「ま、それは後でいいだろ。それよりどうする手を組むか?」
「うん、それは別にいいよ。双剣の戦い方を教えてもらう約束もしていたし」
「おし、それじゃさっそく誓いの盃だな。ミズシマ、酒の用意だ」
「フォフォフォ、了解じゃ」
ミズシマが水晶を操作し始めると岩に手足が生えたようなモンスターが部屋の中に一体現れた。
「えっと、僕お酒は飲めないんだけど……」
トウヤはまだ十四歳、この国で成人と認められる十五まであと一年あるので酒は飲めない。
「おやそうなのか、それじゃ別のモンを呼ぶかのう」
モンスターが消え、また別のモンスターが現れた。
「えっと、このモンスターはなんなの?」
さっきからミズシマのしている事がわからないトウヤは尋ねた。
「ここ、ネクタルレイクはのう、冒険者を呼ぶ工夫として酒の出るモンスターを配置しておるんじゃよ。さっき呼んだのはウォッカロック。そしてコイツはタンサンロックじゃ。頭に出来た溝に水が溜まっておるじゃろ?」
岩のモンスターがしゃがむと、そこに水が溜まっている。そしてその水からプツプツと気泡が出ていた。
「このモンスターは炭酸水じゃが、他のロックモンスターは酒が飲めるので、それ目当てで狩にくる冒険者が多いんじゃよ」
「おい、固い話はそこまでだ。今回はトウヤに合わせて酒じゃないが、さっさと盃を交わそうぜ」
カイリキーが浅皿のようなものでタンサンロックから水をすくう。
「俺達はどっちが上でも下でもない、五分と五分。対等な兄弟の関係だ」
皿の一つがトウヤの前に置かれた。同じものをカイリキーを持っていた。
「さ、飲んでくれ。それで俺とトウヤは正式に義兄弟、身内になるわけだ」
トウヤは盃を手に取ると、グイと飲み干した。炭酸のシュワっとした感覚が喉を通り過ぎていく。
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