夕食のとき
❄❄❄
ディアを寝室に届け、階下にある食堂へ戻った時に、すでにディアが子供たちを起こしていたみたいだった。三人とも料理待ちで落ち着きなくきょろきょろ室内を見渡している。
「おはよう」
「おはようございます」
他二人を差し置いて微笑で対応した白髪の少女に少なからず感心する。もしかしたら少女が少年二人の面倒を見ているのかもしれない。
「ちょうど良かった。ディアの具合はどうですか?」
フォイが厨房から料理を運びながら訪ねてくる。
「君の見立て通り三日三晩寝込むかは知らないが、隈は消えたよ」
「えぇ!? あ……すみません」
フォイがハッと何かに気づいたように口をつぐんだ。大抵大声を出してはしたないとかそういうことなのだろうが。
「熊……え、三日三晩寝込むって……」
子供ら三人は隈が熊に聞こえたらしく、何やら縮こまってひそひそ話していた。丸聞こえだが。
まあいい、放置しておこう。フォイも同じ結論に至ったらしく、特に何も言わない。
テーブルには怪鳥の調理したものと、フォイとディアが調達した野菜類を調理したものが並べられていた。
子供ら三人は食べていいと言うと目を輝かせてがっついた。相当腹がすいていたみたいだった。
よく見ると消化に良いものばかりが並べられていた。さすがディア。気が利く。裁縫類を得意とするフォイは本来厨房に立たない。大抵の家事はディアがこなし、フォイがサポートしている。以前私がやろうとしたら全力で止められた。
ディアが厨房近くにいたこと、出かけていたことからして外出先は市場、既に献立を立てていて、後は調理するだけだったのだろう。結果フォイが一人で料理をすることになったが。植物モドキの事故によって。
「……? どうかいたしました?」
一人の少女が他二人より遅いペースで食事をしながら、フォイをじっと見つめていた。
「あなた、精霊ですよね。なぜわたしたちに姿を見せているのですか。それに、人間みたいに食事をするなんて……」
とめどなくただしかし淡々と質問を述べていく少女を面白そうにフォイは観察していた。
「しっかりした子ですね」
フォイが少女に感じた印象らしい。
「そうですね……」
思案するように呟きながらも、特に迷った様子が見られない。今は言うつもりはないのだろう。ちらりとこちらに視線を向ける気配がしたが、特に反応もせずに黙々と食べ進めた。
「まず自己紹介をしましょうか。私はフォイ。そしてこの方がマリスさん。そしてもう一人いるのですが、彼はおいておきましょう」
あなたは? と視線で促され、少女が口を開いた。
「……スレイと申します。こっちの赤毛がイリヤ。茶髪がレヴィル」
それぞれ二人ともスレイの見様見真似でお辞儀をした。
「へえ」
私もフォイも表向き反応は見せなかったが、スレイの存在が特異だということがわかった。
「それ、どこで習った?」
「それ、ですか?」
「挨拶の仕方ですよ。肝の据わり方も違います。何より、ふとした仕草がまるで……貴族のようですよ?」
ぎくりと身をすくませたスレイの反応に確信を得た私はそこで席を立った。これ以上聞くこともないかな、と。
「ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
隣からフォイが同時に言う。子供ら三人はまだ夕食を食べている最中だ。量が半端じゃなかったからな。
ガタンと椅子を動かす音がしたが、振り返らずに寝室へと向かった。
ディアは精霊だ。私が器を与えたから人間のように振る舞っている。だとすれば器からディアを引きずり出せば問題はないだろう。あの珍奇な草の効能が効くくらいには人間に似せ過ぎたのだ。今度からは与える魔力を少なくしてもいいのかもしれない。
それとも、もしかしてあの草が精霊に害をなすものだったら……? という考えが脳裏をかすめたが、私になんら影響がないあたりやはり問題は器だろうから。
さて、どうやってディアを叩き起こそうか。と思案していたら後ろでぎゃあぎゃあ喚いていた少年にまったく気づいていなかったらしい。
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