最後の観測者

三月のうさぎ

序章

一度目に目を開いた時、世界は青かった。

二度目に目を開いた時、世界は赤かった。

三度目に目を開いた時、世界は…






20世紀の後半、とある物理学者が第三次世界大戦はどうなるかと聞かれた時、こう答えたそうだ。

「第三次世界大戦がどのように行われるのかは私には分からない。だが、第四次世界大戦が起こるとすれば、その時人類が用いる武器は石と棍棒だろう」と。


しかし、この予言は大きく外れた。何故なら第四次世界大戦など起こらなかったからだ。第三次世界大戦の最中、世界は核兵器よりも効率よく、そして大量に人を殺戮できる兵器を作り出し湯水のごとくそれを使った。

世界の列強たちはこぞってそれを真似し、自分の脅威になりそうな国を次々と攻撃していった。世界のあちこちで火の手が上がり、100億人を超えていた世界の人口はその数を約百分の一まで減らしていった。


ここに来て初めて人類は自分たちの愚行に気づく。しかしその時はもう、世界は手遅れだった。使用した兵器は田畑を焼き、森を焼き、海をも焼いた。人々は食べるものを失い、水を失い、そして土地を失った。

人々は枯れ果てた大地を見捨て宇宙へと新たな望みを託した。

かくして、世界はその観測者《にんげん》を失った。







データの再構築 完了

記憶メモリー 一部破損

機体への損害 左上腕部に軽度の異常

エーテルリンク 正常

ニュートラルエネルギー 残量70%

起動しますか? YES/NO

YES. 起動します



長い、長い、夢を見ていた。

世界がまだ青く、木々がおおい繁り、小鳥がさえずり、人々が笑いに満ち溢れ幸福を享受していた頃。

世界が赤く染まり、木々が燃え、動物たちは逃げ場を失い次々と絶滅していき、人は戦いという災禍に飲み込まれていった頃。


三度目に目を開いた彼女がなにを見てなにを感じたのかを知るものはもう誰もいない…





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る