ついて、いった

吉川元景

第1話 はじまりの日


 とある幽霊の女の子がそこにいた。3月の淡く澄んだ綺麗な空を見て、なぜ自分がここに居るのかと思った彼女は、周りを見渡した。

 …散らかった部屋、カップ麺のゴミがゴミ袋につっこまれている…。干してあるワイシャツを見て、家主は男の人だと思った。

 少しして鍵が開く音、思わずカーテンの裏に隠れる彼女は、恐る恐る入ってきた人を見る。入ってきた家主は予想通り男の人で、カバンを置いて、仏壇に手をあわせた後、ソファーに倒れこむように座り、ネクタイを緩め、そして深く青く息をついていた。

「こんにちは。」

 そう彼女はカーテンからゆっくり出て言った。彼は振り返らず、彼女の声は誰の耳にも触れず三月の空に溶けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る