閑話 4
閑話 築城の人々 3
「ちょっと派手やったかな……」
「そんなことなかよ。航空祭の時のより、ずっと地味やし」
できあがった横断幕をひろげ、これまでの頑張りの成果を見ながら、その場にいた女性陣がそれぞれの感想を口にしている。
「地味にしたら、駅のポスターに埋もれると」
「影さん、大阪の人やけん、このぐらい派手でもよかとよー」
「あ、大阪やったら、ヒョウ柄いれなあかんやなかと?」
「それ、大阪のオバチャンやーー!!」
「あ、そうやったー!!」
全員が声をあげて笑った。
「それにしても、駅舎にかざる許可がもらえて本当に良かった」
「駅長さん、いい人でよかったー」
「そりゃ、航空祭ではたくさんの人が電車を利用するけんねー。大変やけど、年に一度の大口の顧客さんやし」
私達が作っていたのは、
「影坊主さんもつけたし、他に忘れてるものないよね?」
「パンサー影さんの似顔絵も描いたし、問題なかとよー」
大きな文字とイラストの隙間には、子供達の思い思いのメッセージも書かれている。予想以上にメッセージを書く子供達が増えて、白地の部分のほとんどが文字でうまっていた。これをすべて読むのは、なかなか大変な労力になると思う。はたして影さんは、このメッセージを全部、読んでくれるだろうか?
「影さん、ちゃんと見てくれるかな、この横断幕」
「そこは抜かりなかよ。絶対に通る場所の正面に、はりつける約束をとりつけたし」
「おおー」
その言葉に、全員が拍手をする。
「予備の日を含めて、一週間つけることになってるから、影さんが見逃すことはないと思う」
「いつこっちに帰ってくるのかな、影さん」
「今頃、どこにいるんやろ」
「ドルフィンからF-2に戻る訓練、どれくらいかかると?」
「それって
「でももう影さん、松島基地のマニアさんの写真には、出てこんよね?」
広報担当でもあるブルーインパルスにいる間は、いろんな写真が出回っているライダーさんやキーパーさん達も、その任務から離れると、パッタリと表には出てこなくなる。特にライダーさんは、防空任務に戻ると、安全上の問題もあって、顔出しはほとんどなくなるらしい。
「いまさらなんだけど、影さん、本当に築城に戻ってくるよね?」
あまりにも影さんの消息が不明すぎるので、少しばかり不安になってきた。松島基地でのラストフライトのセレモニーから、そろそろ一ヶ月。いまのところ、影さんが築城に戻ってきた様子はない。
「そこは間違いなかと。前の横断幕の時に、基地の人が言いよったし」
【 おかえりなさい、影さん! 早くパンサーとして戻ってきてね!! 】
影さんのラストショーは築城基地航空祭だった。これはその時に作った、横断幕に書いた言葉だ。基地の人いわく、それを上空から見た影さんは、「あんなん書かれたら、絶対に戻ってこなアカンやんなあ」と笑っていたらしい。
「横断幕の相談をした時に、駅に飾るなら、この期間にしたら良かかもしれんってことやったし、そこは間違いなかと思う」
基地の人も、広報からはずれた隊員の動向を、部外者に教えることはできない。このアドバイスも、ギリギリのラインでのことなのだ。それもこれも、影さんの飛行を撮り続けている夫達と、影さんを愛する周辺住民と基地が交流を続けてきた結果でもあった。
「そう言えば、うちの人、無線機を新しいのにしたとよ」
「あ、うちも!」
「うちは望遠レンズを新しいのにしたと! また私に内緒でヘソクリしてたとよ!! 腹立つ!!」
「私、自分用のデジタル一眼を買った……」
「おおお、沼沼、たいへん!!」
通称『影さんの叫びを
「松島のマニアさん達も、写真が流れてくるのを楽しみにしてるみたいだったよ」
夫が、仲の良い松島基地のマニアさんに聞いたところによると、あちらでは、五番機を撮る時のシャッターのタイミングが、行方不明になっているらしい。案の定というかなんというか。しばらくは苦労しそうだとのことだった。そして夫のほうはと言えば、やっと写真を撮るタイミングが戻ってくると喜んでいる。
「影さんが帰ってきたら、休みの日は当分、基地周辺にはりつきそう……」
「しばらくは、いつもの土手がにぎやかになりそうやねー」
当分の間、カメラと無線機を持った人達が、いつもの撮影ポイントに押し寄せそうだ。もちろん私も行くつもりでいる。そのために無線機も買ったし、自分用のカメラも買ったのだから。
「横断幕はこれで良かと? なにか意見は?」
特に出なかったので、これで横断幕は完成、あとは駅舎に垂らしにいくだけとなった。当日は都合のつく夫達も一緒に、駅に行くことになっている。
「いよいよだねー」
「いよいよだー」
「新しいシーズンが始まるねー」
「影さんリターンズ!!」
どこかのB級映画みたいなタイトルに、その場にいた全員が、再び声をあげて笑った。
パンサー影さん、リターンズ。今から楽しみだ!!
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