第74話「Pennies from Heaven」

 アレクサンドリアに戻ると命じたものの、シナンは迷っていた。

 アレクサンドリアに構えた拠点は、あくまでエリア外を含めたサバイバルゲーム用の拠点であって、参加してないシリアルキラーにとっては、関係のないルールだからだ。

 ガラ空きになっている地中海(エリア外)から攻められれば、一溜ひとたまりもない。

 タブレットに映したエジプトの地図を見ながら、シナンは『対シリアルキラー用の拠点』となる場所を探していた。


 何処で、迎え撃つ?

 全滅は免れないとしても、あと14分も持たさなければならない。


「此処からなら……アルファイユームが近いな。この谷で迎え撃つか?」


 その時、ソナー係のオペレーターから、緊急連絡が入る。


「南方から14機、GTMの接近を確認! 距離、およそ20km!」


「なんだと!?」


「相手、判明しました! ラムジです、ラムジのBチームです!」


 チッ!

 ラムジがアルファイユームを抑えていたとなると、この谷は使えん!

 このままの速度で後退していては、間違いなくラムジに追いつかれ交戦となり、アイツ(シリアルキラー)に気づかれる!

 しかし、全速力で逃げたとしても、合わせて26機の塊が動くんだ、気づかない訳がない!

 Cチームが全滅していたなら、俺たちとアイツでラムジを挟むんだがな……、

 どの道、気づかれるなら!


「全員、全速力でアレクサンドリアへ撤退だ!」


 ラムジに背中を見せるのはしゃくだが、上手くいけば、アイツが先に狙うのは、追ってくるラムジの方だ!

 残り13分、逃げ切ってみせる!


「シリアルキラー、コチラに気づいたようです! 他にも4機、コチラへ向かって来ます!」


「4機?」


 周辺に居て倒さない機体ということは……あの時の娘たちか?

 そう言えば、近々インベイドに来るって、ラルフのヤツ言ってたよーな?


「ということは、インベイド社の筐体か! 30分フルに出来んじゃねーか! クッソ!」



 背を向け必死で逃げるシナンの姿が視界に入り、ラムジはほくそ笑んだ。


「Aチーム12機、捕らえました。その内訳は、GTX4機、残りはGTRです」


先遣隊アタッカーを失ったか、足の遅いお荷物(GTR)抱えて、逃げ切れると思うなよ! シナン!」


 轟音と砂煙をあげ、ラムジの集団はシナンたちとの距離を詰めて行く。

 あと少しで、その照準にシナンを捕らえようとしたところで、オペレーターから緊急連絡を受けた。


「後方より、GTXが5機、接近してきます!」


防御隊ディフェンダー! 後ろのキツネは任せる。残りは、シナンを全力で追え! あと一息だ!」


 だが、指示を出してから、数秒も経たない内に返って来たのは、撃墜報告ではなく、悲鳴だった。


「し、シリアルキラーだぁーーーッ!」


「なに? シリアルキラーだと!?」


 ラムジが振り返った時、既に防御隊ディフェンダーの姿は無く、そこに居たのは、荒れ狂う赤い鬼神だった。


先遣隊アタッカー、後方のシリアルキラーの相手を! 残りは……」


 命じられた指示よりも早く、秒単位で墜ちていく。

 シリアルキラーの攻撃を始まったと知って、シナンも動いた。


「全員、反転! ラムジ向けて、撃って撃って撃ちまくれ!」


 先に居るGTMの集団が、全員反転したのを見て、雅が叫んだ。


「みんな! 散開さんかいして! 撃ってくるわよ!」


 ゲーム部員たちが散り散りになる中、飛鳥だけは、弾を避けつつ、更に前へ突き進む。


「ぷ、プロが17機も居て……10秒、持たないだと……」


 その言葉を最後に、ラムジのGTMは、シリアルキラーに首を狩られ、ログアウトを余儀よぎなくされた。


 此処でやるしかないのか、迷ってる暇はねーな!


「テメーら! 鶴翼かくよくで、受けるぞ!」


 鶴翼とは、陣形の一つで、鶴が翼を広げたようなV字を描き、敵を中心に引き込んで包囲する、防御力の高い陣形である。

 翼の内へと入って来たシリアルキラーに、Aチーム全員が照準を合わせた。


「幾らテメーがバケモンでも、この距離で12機全ての弾は避けられん筈だ!」


 だが、そのトリガーが引かれるよりも早く、シナンたちは上空から襲撃を受ける。


「しまったーッ!」


 そう、散開した雅たちが、上空から狙ったのだ。

 通常のレーダーが映るエリアであったなら、こんなミスは犯さない、カイロであったからこそ通じた作戦だった。


 シナンは、シリアルキラーにばかり気を取られて、他の4人を忘れていたことを悔いた。

 最早これまでと覚悟したその時、シリアルキラーが目の前から、忽然こつぜんと姿を消す。


「え? あぁ……タイムアウトか……」


 ゲーム部員たちは、インベイド社のイプシロン筐体でプレイしていた為、時間が来ればプロといえど、強制ログアウトするのである。

 雅たちの設定時間は10分で、サバイバルゲームの残り時間が12分の時に、タイムアウトを迎えたのだった。


「助かっ……ては、ねーな」


 自分を含めて、Aチームの生き残りは3機だったのを知り、シナンは苦笑する。



 一方その頃、イスマイリヤに居たミックのCチームは。


「誰も来ないねぇ~」


「ですね~」


「今、何機、残ってる?」


「一機も、失ってませんね~」


「だろうねぇ、戦ってないもんねぇ。こんなことも、有るんだねぇ」


 こうして、誰からも攻められることなく、30分を過ごしてしまったCチームの優勝で、サバイバルゲームは終了した。

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