昔物語(仮)

せいや

第1話

[2014/4/14(Mon) PM4:22]


二階堂 遼登(にかいどう はると)は大きく息を吸い込んだ。

「ヒュウウウゥ」

この音は、今遼登が持っている木管楽器から発せられたものではない。遼登の口から発せられたものだ。

「羽奏ちゃん、上手だね!」

この音も、今遼登が持っている木管楽器から発せられたものではない。吹奏楽部の二年生、フルートパートの西本 風音(にしもと かのん)の口から発せられたものだ。柊 羽奏(ひいらぎ わかな)が勝ち誇ったように遼登に顔を向けるが、遼登は気づいていないようだ。

「遼登君も頑張って!」

一つ上の先輩の声にようやく我に返ったのか、手に持っていた木管楽器を口元から離した。

「フルート難しいな。そもそも音が出ない」

遼登が苦笑いを浮かべるのを見て、風音が優しく微笑んだ。

「そっか。でも気持ちはよくわかるよ。最初は私だって音出なかったもん」

その言葉に遼登は安堵の表情を浮かべる。不意に水城 京香(みずき きょうか)が口を開く。

「風音、さっき合奏室から時代劇みたいな音が聞こえたのは気のせい?」

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