【アニメ2期制作記念】友人へ

ごこくに辿り着き、暫く陸路を進んだ所。


「ゴホッ...、ゴホッ...」


「大丈夫?かばんちゃん?」


僕の右横から顔色を伺うサーバル。

このごこくに来てから、体調が少し変だ。


咳が出る。


ラッキーさんは、熱が無いし、風邪ではないと言う。


「ごめんね、サーバルちゃん。

心配かけさせて...」


「無理しないで!休憩は大事だから」


「う、うん...。ゴホッゴホッ...」


右腕で口元を抑えた。

一応咳止めはラッキーから貰った。

飲んでおくべきだろう。


数十分走ると、バスの速度が遅くなったのと同時にラッキーが語りかけた。


「かばん、コノ先カラ、特別開放区内、

サバンナエリア二ハイルヨ」


「なんですか...、それ...」


「フレンズノ、生態実験ヤ様々ナ試験ガ行ワレテイタエリアダヨ。コノ中ノフレンズハ、外ノ世界ト、隔離サレテイルンダ」


目の前に鉄製の背の高いフェンスが現れ、行く手を阻んだ。


「かばん、電子ロックヲ解除スルカラ...」


フェンスにある装置にラッキーをかざし、開錠した。扉は後で自動的に閉まった。


そのエリアの中をバスは進んだ。

外の景色は、さばんなエリアのような光景が広がり始めた。


「すっごーい!私達が来た所そっくり!」


「そうだね...」


その景色は自分達の故郷と全く変わらないが、完璧とは言えない。

些細な間違いがある世界。

僕の目にはそう映った。


「ねぇ、ちょっと降りてみたいな」


サーバルが言い出す。

急ぐ旅路では無いので、探索してもいいだろう。


「ラッキーさん、止めてくれますか」


そう語りかけ、バスを止めた。


広い草原の地を踏みしめる。

懐かしさ、そしてあの時の記憶が蘇った。しかそ、何なんだろう。この雰囲気は。


「かばんちゃん、行ける?」


「うん」


サーバルは嬉しそうにスキップしながら、進んでいった。


「ガーイド!ガーイド!さばんなガイド〜」


懐かしいフレーズを口にする。

生まれ故郷に戻ってこれて、嬉しいのだろう。


僕達が歩いていると、


「うみゃ?」


と足を止めた。


「どうしたの?」


「シッ!何か草むらにいる!」


小さい声で言った。

流石に耳の良いフレンズだ。

自分は全然気づかない。


(こんなところでなんだろう...

もしかして、セルリアンとか...)


僕は不安を感じた。

だが、その不安はすぐに掻き消される。


「サーバルじゃん!!」


「ええっ!?ちょ!」




「え...?」


いきなり草むらからフレンズが飛び出したと思ったら、サーバルに抱きついたのだった。


「久しぶりー!!あの時以来だね!」


「な、なにが?」


サーバルが困惑した顔を浮かべると、

フレンズは一旦彼女から離れた。


「えっ?マジ?私のこと覚えてないの?」


「知らないよ...」


「えー!ウソ!カラカルだよ!

一緒に遊んだり、セルリアン倒してたりしたじゃん!」


「カラカル...?カラカルは知ってるけど、あなたは知らないよ?」


「はあ?ええ?」


カラカルもサーバルの返しに困惑した。


「あの...、人違いじゃないんですか?」


僕は思い切って、間に入る。


「ん...?あなたヒト?」


「かばんって言います。

あの、カラカルさんが言ってる

サーバルって、別のサーバルじゃないんですか」


そう指摘すると、腕を組んだ。


「いや...。間違いなく私の知ってるサーバルだよ」


「だけど、私は知らないよ!?」


「...、あっ!そうだ!

ねぇ、サーバル。私と一緒に居ればなにか思い出すかもしれないよ」


カラカルはそう提案したのだった。

僕も、サーバルも、一瞬彼女の提案を飲み込むことを躊躇った。

彼女の言う事が食い違っているというのが、大きな要因だろう。

だが、サーバルは断れない性格なのを

僕は知っている。見た目や意見の相違だけで、無視するという事はしない。


「えっと...」


「ねぇ、いいでしょ?」


チラッとサーバルは僕の顔色を伺った。


「私も何かを思い出すかもしれないね

一緒に来るなら、来てもいいよ」


「やった!ありがとうサーバル...!」


また彼女はサーバルに抱きついた。


「.....」


かばんはカラカルが信用できなかった。

この特異な空間のせいなのか、

本能的な物なのか。

大きな癌の様な疑心がかばんに芽生えた。


バスに乗り込んでもなお、カラカルが

一方的に喋り、サーバルはそれに適当な相槌を打つという感じだった。

上手くコミュニケーションが取れているとは言えない。

僕はサーバルがタジタジになっているのを初めて見た。


「あれってなんですか?」


僕はざばんなのド真ん中に突如姿を表した建物を見つけた。


「アレハ...、ラボダネ」


「ラボ?」


「....」


いつもは詳しく解説してくれるのにこの時は何故か解説してくれなかった。


「ラッキーさん、止めましょう」


と言って車を止めた。


「どうしたの?かばんちゃん...」


「ああ、ちょっと気になる物があって」


僕はバスを降りた。


「あっ、ちょっと...」


「んー?」




その建物は朽ち果てていた。

ガラスが割られ、明るい雰囲気は全く感じない。

だが、僕はそんな雰囲気に屈しず、

ガラスを踏みつけながら、中に入って行った。



昼間なのに中は薄暗い。

サーバル達のことなど忘れ、無我夢中で

探索した。


何故この建物に僕は興味を持ったのか。

自分に問いただしても、答えが出る訳ない。


僕は焦っている。

その原因は先程同乗して来た、カラカルにある。

彼女は“何処かが変だ”


ラッキーさんの言っていた

“実験”“特別開放区”というワード。


何か関係があるかもしれない。


僕は、大きな違和感と不信感を破壊するのに精一杯だった。

そうしないと、僕が納得しない。


暗い研究室の中を手探りで探った。


1冊のノートを手に取った。


明るいところでペラペラと捲る。

達筆な字に目を通した。


“絶滅したフレンズを蘇らせるという事は倫理的に問題があるのではないだろうか”


“サンドスターは奇跡の物質と言う研究者もいるが、私にとっては悪魔の実のようなものだ。”


僕にはそんなこと関係ない。


「あっ、いた!どうしたのかばんちゃん

なんか変だよ!」


右の手の平を差し出し、黙らせた。


“私は、彼女を幸せにしたかった。蘇りし記憶は、幸せをもたらすとは限らない”


ページの端っこに書かれていた。


黙ってノートを閉じ、自身の鞄の中へ入れた。

そして、カラカルを見つめた。


「....」


「..ゲホッ、ゲホッ...」


このタイミングで咳が出始めた。


「かばんちゃん!」


サーバルは咄嗟に屈んだ。


「サーバ、ゲホッ...ルちゃん...」


「....」


僕はサーバルにおぶってもらう形になり、バスに戻った。


カラカルの事を調べあげる必要がある。

どこかゆっくり出来る場所。


「コノ先、コテージガアルヨ」


そこで一晩明かす事にした。

即決だった。





夜になり入手したノートを読み返す。

後ろでは相変わらずカラカルが喋っている。


「ゴホッ、ゴホッ...」


突如湧き出る咳を手で抑えながら、

読んだ。

僕にとっては晦渋な文書だが、

解読しなければならない。

誰かに指図されてやったことでもない。

僕がカラカルという存在に嫉妬して、

屁理屈を叩きつけてやろうとでも

思っているのかもしれない。

自分の事なのに、自分がどうしたいのかさえも、わからない。

虚構の存在が、僕を焦らせる。


「カバン」


唐突に腕のラッキーが語りかけた。


「何ですか」


「キミハ、病気カモシレナイ」


「病気ですか」


「....」


余計なことを言ってしまったと後悔したかのように、急に黙ってしまった。

肝心なコトを彼は言わない。

僕にいつも歯痒い思いをさせる。


そんなラッキーさんのことは無視し、

ノートに目を通し続けた。






「...ん」


僕は寝落ちしてしまった様だ。


「ねぇ」


その声でハッとした。

カラカルだ。


「君さ、かばんだっけ」


「...はい」


「ふふっ」


彼女は変なふうに笑った。


「あんた、私が怖いんでしょ」


「・・・」


「そう思うのは間違いじゃないね」


口元を緩めた。


「あの、あなたは何者なんですか」


単刀直入に、切り出した。


「ただの友達だよ」


あっさりした回答に僕は僅かな苛立ちを覚えた。

もう一度、別の質問をした。


「なんで僕がヒトだとわかったんですか」


「私にもヒトの友達がいたから」


「ヒトの友達...?」


「大切な友達。でも、会ったことはない」


「どういうことですか?」


「記憶の中だけの友達。

会ったことはない。そういうこと」


彼女の口にしている言葉の意味が僕には全く理解が出来なかった。


「君もあの人みたいな雰囲気をしているね。けど、君と私の友達とは、違う所がある」


「どこですか」


「君はもう長くないよ」


「えっ...?」


彼女はまた笑った。

まるで、冗談を呟いたかの様だ。


「何か証拠があるんですか」


「君の咳だよ」


僕は彼女がしたように、笑い返してやった。


「あなたはお医者さんなんですか?

そういうのは悪い冗談って言うんですよ」


「まあ、かばんがどう受け取るかはかばん次第だよ。私は私。あなたはあなた。

でも、私は友人として、かばんに伝えるよ」


「カラカルさん。お気遣いありがとうございます。けど、僕は仮に病気だったとしても、直しますよ。直して、カラカルさんを驚かせます」


真剣な眼差しで彼女を見つめた。


「ふふっ」


また気持ちの悪い笑い方をされた。


「頑張ってね」


「....」


「私もサーバルと寝よー!」


「待ってください」


カラカルを呼び止めた。


「僕のサーバルちゃんを取らないでください」


「あはははっ!ホントに変な人!」


彼女は大笑いした。

僕には何が面白いのかわからない。


「あなたこそ、変です」


真面目に正論を返した。


「オーケー、まあ、彼女との思い出楽しみなよ」


僕がカラカルと目を合わせた瞬間


「ゲホッ...ゲホッゲホッ...」


激しく咳をした。


「...お大事にね?」


「ゲホッ...」


この時、絶対治してやると心の中で誓ってやった。あんな奴の言う通りに死ぬものかと。




しかし、後に残息奄奄な状態になるなんて。


カラカル。一体、君は。


「ゲホッ、ゲホッゲホッ...ゲホッ...」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る