疑心暗鬼

フェネックは怯えた目で彼女を見つめた。


「フェネックさん...、僕は貴女が怖いんです。何かされそうで」


カチッ


「完全に根を枯らさないと...」


黒い銃口をそっと近づける。


「や...、やめ...」


「“他人”は信用出来ません...

僕は、やり過ぎだと思ってませんよ。

言われた通りにしてるだけですから」


銃口は彼女の股間を狙っていた。

そして、沈黙したまま、その引き金を引いた。


バンッ...


不気味な音が響いた。


僕は、こうでもしないと、不安で眠れない。


アレはいつ頃からだろう。


悪夢を見るようになったのは。


僕は、一度寝ている時に、フレンズではない動物に襲われた。


それがトラウマになった。

サーバルが追い払ったが、あの恐怖は

僕の頭の中にずっとこびり付いた。


僕はそれ以降悪夢を見る。

フレンズが僕を殺そうとする。


それが何度も続いた。


フレンズが怖くなった。

サーバルの顔を見るのでさえも。


僕は、ラッキーに相談した。

野生動物を倒すにはと。

そしたら、“銃”があると教えてくれた。

武器の保有は一部のパーク職員の権限を持ってないとダメなどと言っていたが、

暫定パークガイドの僕は言葉巧みにラッキーを誘導し、銃使用の権限を得た。

しかし、銃を手に入れてからも、不安は

拭えなかった。図書館で何かないかと

漁りまくった。そして、心の救いを見つけた。“宗教”だ。

何か困った事があったら神様が助言をくれる。僕は神を信仰し祈り続けた。


神はこう言った。


妖艶なる耳の良いスナギツネ、命求めし歩き回る。不純な子を産みし口を封じよ。


だから、僕はフェネックさんを殺した。

股間を撃ち抜いて。

神様は僕を救ってくれた。


今はサーバルも、信じない。

僕が信じるのは、神様だけだ。


神様が友達と言わない限り、敵しかいない。


僕は、怯える様にサーバルからも距離を置いた。寂しそうな目をしていたがそんなのは知らない。


後日、アライさんがフェネックが死んだことに気付いた。泣き出した。うるさかった。


神様はこう言った。


悪を呼び集めし、紫苑の獣の声を、封じよ。


僕はアライさんを呼び出した。


誰もいない、図書館の外の白壁に立たせた。慰めるフリをして僕はその銃を使い、彼女の喉元に突き立てた。


「なんなのだ...?」


彼女達は銃を知らない。


「神様の言う通りにしないと、僕が危ない」


そう伝えた後、銃弾は彼女の喉を貫通した。


口から思いっ切り吐血した彼女は、そのまま壁にもたれ掛かり、奇妙な呼吸音を何度か響かせた。


まだ瀕死の状態であると思った僕は、

心臓を撃ち抜いてやった。


苦しませるよりは楽にさせた方が良い。

神様は僕の優しさを受け止めてくれるだろう。


僕にとって予想外だったのは、サーバルだった。彼女は道具を使えるのは、かばんちゃんしかいないと、単刀直入に言い出した。彼女は「何故?」と僕に尋ねた。


僕は「神様のお告げ」と言った。

彼女は必死に神について僕に尋ねた。

僕が丁寧に教えると、


「私もかばんちゃんの神様を信じる」


と言った。


けど、サーバルちゃんは神様の声が聞こえないと言った。仕方なく、僕は神の言葉をそのまま彼女に教えた。

すると、彼女も僕と同じ様に、フレンズを殺し始めた。


神の言葉を忠実に遂行したのだ。


神の言葉を信じれば、必ず幸せになれる。僕も彼女もそう思っていた。


次第にサーバルちゃんも神の言葉を聞けるようになった。僕は嬉しかった。


いつの間にか、きょうしゅうの地は静かになりつつあった。


サーバルちゃんは、神の言葉で助手を食べろと言われたらしい。生命が伸びると。


隠れていた助手を見つけ出し、連れて行った。博士が抵抗しようとしたが、

僕が銃を見せた瞬間大人しくなった。


助手を生け捕りにし、儀式をしてから、衣を剥がした。


サーバルちゃんはそのままむしゃぶりついたが、僕はそんなの出来ないので包丁を持ち食べやすく切った。


助手を骨の髄まで食べた。


「神様ありがとう!」


サーバルは空に向かって何度も唱えた。

僕も静かに願った。


以前よりフレンズの数は減ったが少しは残っていた。

僕達の姿を見るとすぐ逃げたり、睨んでくるフレンズも居るが、関係ない。


サーバルと二人で神様のお告げを聞きながら毎日過ごした。


しかしある日、奇妙な事が起きた。


サーバルは僕の腹を爪で突き刺し、

僕はサーバルの胸を銃で撃ち抜いた。


「ねえ、神様にかばんちゃんを殺せって言われたんだけど」


「僕はサーバルちゃんを殺せって」


あれ。何かがおかしい?

しかし、薄れて行く意識にそれを指摘する力は無かった。


ああ、そうか。お互いに死ねば一緒に

幸せに暮らせるのか。


ブラックアウトする寸前にそう言った結論を出した。





僕とサーバルは同じ場所で目覚めたようだ。


地は茶色く、空は紅に染まり、ゴツゴツとした岩がいくつも突出していた。

水平線の向こうは暗闇になり、よくわからない。


「きっと、神様が私達を同じ所に導いてくれたんだね!」


彼女が、そう明るく言った。


僕は肯いた。


ここにも、神様は居るんだろう。

いや、神様が住んでいる世界に来たのか。


結論はすぐに出せない。


彼女と二人、手を繋いで、ゴツゴツとした岩の道を先へと歩いて行った。

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