朋輩
白浜 台与
第1話 プロローグ・丑の刻
丑の刻(午前一時~三時)
その女は、頭に五徳をかぶってそこに三本の蝋燭を立て、下駄を履いていた。胸には鏡をつるし、真夜中で人気も無い稲荷神社の、
その人形の中には自分の恋人を奪った元親友の髪の毛が入っている。
恵理子め、絶対許さない…
女が黒コートを脱ぐと中から現れた白装束姿。
この神社のご神木は防犯カメラに映らないことまで女は下調べしていた。
あとはこの藁人形に五寸釘を打ち込めば!
女が五寸釘に手を添えて金槌を持ち、まさに打ち込もうとした瞬間…
「あいや待たれよ」とご神木の裏から出てきた黒塗りの傘を目深にかぶった侍に十手を付きつけられたのだ!
「その方、呪詛法違反の二の3項、古来呪詛未遂の現行犯…直ちに今の行為をやめる事じゃ」
と侍の口調は威圧的である。
「気持ちは分かるぜ…結婚前提の彼氏を親友だった女に取られるなんてな。だけどな、呪詛はしちゃなんねえ。なんねえんだよ。お嬢さんもろくでもない事になる」
ともう一人、ハンチングを頭に乗せたアロハシャツの中年男がくたびれた警察手帳を片手に持って諭すような口調で女に歩み寄る。
「ぎ、ぎゃあああっ!!」
と女は悲鳴を上げて全て放り出して逃げ去って行った。
「今日も一件、呪詛を止められて良かったぜ」
とアロハシャツの男が白手袋をはめて藁人形を拾い上げ、ビニール袋に入れる。
侍はすかさずビニール袋に十手を入れて怨念測定をするとかなり高い数値の憎悪を発している。
「毒性が高い…早く札を張って袋を封印することじゃな。社の主に見つからぬよう手早く物品を回収せよ」
と
「しかし、小田島さんの登場の仕方は誰でも悲鳴上げて逃げますよ。ちょっと怖すぎやしませんか?」
とハンチングの刑事、康次郎が口を尖らせて言うと、
「それは拙者の意見だ。お主の花柄の夏服、『あろはしゃつ』と言うたか?そっちの方が下手人に舐められるぞよ」
と紋切口調でたしなめ、康次郎の紅いハイビスカス柄のアロハシャツにきつい目線を向けた。
丑の刻参り。毎夜、正式の恰好で神社のご神木に憎い相手の髪の毛が入った藁人形を五寸釘で打ち込む日本古来の呪法、これが現世でまた流行ってきているのだ。
「呪いの道具も通販とやらで入手出来る平成は怖いな。いや、いつの世も怖いのはおなごの憎悪と嫉妬」
と勘解由が笠顎紐に手を添えて言うと、
「怖いのは俺達の方でしょうが。だって幽霊なんだもの」
と言い返した。
閻魔庁管轄、冥界警察強行犯係は所属する刑事のプロファイリングを徹底的に行い、相性適格と判断された二人の刑事を、
生きていた時代も価値感も関係なく組み合わせた。
今川康次郎と小田島勘解由。二人の共通点は「江戸っ子」というだけである。
冥界警察の刑事は相方を相棒ではなく、
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