7.2話 第一回おにぎり大会開催のおしらせ(3)
「ああら、なあに? アタシの完璧な手さばきに見とれてたのかしら?」
ハニールは勝ち誇ったように微笑んできて、エミリーは悔しくも言葉につまる。ハニールの前に並ぶオニギリは、完璧だった。ヒフミにも引けをとらないくらいだ。エミリーのものより形が整って、ふっくらしている。
「どうしてもって言うならコツを教えてあげなくなくもな」
「見て見てエミリー! ハート作ったよ」
「ちょっとシンティア、割りこんでくるんじゃないわよ! 今アタシの華麗なオニギリについて」
シンティアが当たり前のようにハニールとエミリーのあいだに身を乗り出してきて、オニギリを掲げてくる。
「ハート、エミリーにあげるね。はい」
「え、あ、ありがとう」
シンティアがくれたオニギリはハート型で、シンティアの皿の上を見ると、星型や四角形のオニギリが乗っていた。器用だな、と感心する。けれどハートのオニギリは隙間なくノリに包まれていて、何だか
「ヒフミには四角で、マリアンヌには星あげ」
「ちょっと今話しかけないで! 今まさにお米の気持ちをつかみかけたところなのよ!」
マリアンヌが殺気立った形相でシンティアの声を遮る。大丈夫だろうか、と本気で心配になる。
そういえばイルケトリはどうなのだろうか、と視線を向けた。先ほどから会話に参加してきていないが、黙々と綺麗なオニギリを作っているのだろうか。そう思ったとき、エミリーは息をのんだ。
イルケトリはものすごく渋い顔をして、オニギリを握っていた。そして、皿には米の塊が。オニギリではなく、米の塊だ。かろうじて丸か、と思うが、丸ではない。
(マリアンヌより、下手……!)
エミリーは衝撃を受けた。まさかマリアンヌより料理ができない人物が、館の中に存在するとは思わなかった。しかもイルケトリだ。何でも完璧にやってみせそうなイルケトリが、なぜ。
言葉を失っているエミリーに気付いたのか、シンティアがエミリーをのぞきこんで、イルケトリのほうを向く。
「あーイルキね。ほんっと下手だよね。ドレスは作れるのに何で料理になると急に下手になるの? ドレスのほうが作業細かいでしょ」
シンティアが悪気も何もない表情でイルケトリに言葉を投げる。
イルケトリはほんの少しだけエミリーとシンティアのほうに目をやって、完全にすねた子どもの顔でそっぽを向いた。
「料理はほぼしたことないからだ」
たしかにラッチェンスの令息なら料理などしてこなかっただろう。けれどドレスを作れるほどの技術がありながら、ここまでオニギリを別物として握れるとは、ある意味ものすごい才能なのかもしれない。世の中はよく分からない。
「というか三角じゃなくてもう丸でいいだろ」
「丸も丸になってないよね?」
ぼやくイルケトリに、シンティアが何の感情も乗っていない声でつっこんだ。
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