スクルドの策


 午後1時45分、草加市のアンテナショップで様子を見ていたビスマルクは――。

「やはり、こちらしか選択肢がないのか」

 サイト説得と言う手段も使えなくなり、残る手段は――強硬策のみか。

しかし、そうした策に出なくても世論を変える事は可能だと――別のニュースを見て確信する。

【プロゲーマーの動画、再生数上昇の理由は?】

 ミカサの動画は相変わらずの再生数だが――他のプレイヤーは上昇しにくい。

アクションの派手さだけでは再生数は上がらないと言う事を記事では触れているのだが、専門用語が多すぎて分かりづらかった。

パルクールにおける専門用語ではなく、この場合はARゲームや動画投稿サイト的な専門用語だが。

「こうした手段もあるのか――」

 ここはARゲームのフィールドである。パルクール時代のノウハウがギャラリーに通じるかと言われると、微妙なラインだろう。

そして、ビスマルクは一大決心をした。ランダムフィールド・パルクールの動画で、ファンの心を掴んで見せる――と。

 早速行動に移したのは5分後――午後1時50分だった。

丁度、マッチングの余裕があった事もあってのエントリーだが、予想外の反響である。

「まさかのビスマルクか――」

「他にも有名プレイヤーがいる。これは期待できるかも――」

「レベル的には若干不安だが、これは期待してもよいかもしれない」

 ギャラリーからも様々な声が聞こえる。ビスマルクも、それに応えるつもりではあるのだが――。

ARゲームとしてのプレイを見せる事、それが自分の声を届ける為に必要だと判断したのだ。



 ビスマルクと有名プレイヤーのレースは、周囲が想定した物とは非常に異なる様子を見せた。

1位はビスマルクだったのだが、彼女のプレイスタイルはパルクールで見せた時の物とは別のアクションを披露したのである。

 このアクションは、ARゲーム経由でランダムフィールドを視聴しているユーザーやプレイヤーからは評判だった。

その一方で、パルクール時代のビスマルクとは変わったと判断する視聴者もいる。

【あの変化は――別人だぞ】

【基本アクション自体に変化はないだろう。問題があるとすれば、ビスマルクがARゲーム側にプレイスタイルを変えたことだ】

【ARゲームではアスリート出身者が開花しにくいとは言われているが、スタミナ的な部分もあれば――プレイスタイルが受け入れられない事も原因と聞く】

【全ては――そう言う事か】

【炎上勢力やメディアによる印象操作やゲーム系迷惑サイト、芸能事務所や広告会社のアフィリエイト稼ぎ――色々と理由はあるだろう】

 ネット上でも今回のビスマルクに対する批判はあるのだが――そうした意見は一握りにしか過ぎない。

それこそ、ミカサを炎上させようとした勢力が、ビスマルクも炎上させようとしていたのが――逆に利用された格好だろう。

まとめサイトでの記事で捏造が書かれているのは明らかだったが、それに対して言及する事はあえて行わない。

 おそらく、反応せずにスルーをする事も炎上を広げない手段の一つと判断したのだろう。

その証拠としてビスマルクのプレイスタイルを変えた事に関して批判的だったサイトは、大抵が広告会社のアフィリエイトや検索サイトの上位狙いを目的としたダミーだったのである。

「案の定というべきか――このパターンは」

 ビスマルクに批判的なサイトを見て、記事の内容を巡って炎上している様子を――ある青年が谷塚駅のセンターモニターで見ていた。

負傷個所はすでに治療済みであり、入院の必要性もなかったらしい。これはARアーマーのすごさと言うべきかもしれないが。

「あとは西雲がどうなっているのか――」

 彼は西雲春南(にしぐも・はるな)の炎上したレースに関して、思う所があったらしい。

炎上した理由はまとめサイト勢力等による物である事は明白だが――本当に、それだけで炎上したのか?



 午後2時、あるニュースが拡散していく事になった。

『大手広告会社が、特定人物に対する批判的な記事を書いたとして強制捜査を受けている模様です』

 ニュース原稿を読み上げた後、映し出されたのは秋葉原の電気街だったのである。

どうやら、強制捜査を受けている広告会社の入っているビルがあるのが秋葉原らしい。

何故に秋葉原なのか、視聴者には判断しづらい状況である。広告会社のある場所と言えば東京の都心部辺りのはずだ。

ARゲームのメーカーや関係企業はオケアノスを中心とした草加市に集まっている傾向だが、広告会社はその辺りには存在しない。

『こちらは秋葉原の広告会社ビルの前です。先ほどからダンボール箱を持った――』

 現場ではリポーター以外にも、他局のカメラマンや立ち入り禁止エリア外から様子を見ているメイド等――ギャラリーも増えている。

何が起こったのか聞こうにも状況が呑み込めず、炎上しかねないと言う事でインタビューが行えないのだ。

【特定人物? ARゲームメーカーの間違いでは?】

【あながち、ARゲーム絡みとは言えないらしい】

【ARゲームで炎上すれば、タイミング的にまずいだろう。ミカサの一件もあって】

【おそらく、別口でアフィリエイトを稼ごうとして自滅したのだろうな】

【一部勢力も、これで大きく衰退していく。ARゲームにおける障害も確実に減っていくだろう】

 一連のニュースを見たであろうつぶやきが拡散していき、やはりというかそれを引用して捏造記事で印象操作をする勢力もいた。

しかし、そうした承認欲求狙いや悪目立ち、強い意志等を持たない情報は悪意を持っていると判断されかねない。

その証拠として、ミカサを初めとしたガーディアンによって、そうしたユーザーは次々と検挙されていく。

「案の定というべきかな。全ては順調だ――これを順調と言うのであれば、ネット炎上なんて最初からするべきではないのだ」

 一連のまとめサイト検挙のまとめ記事をチェックしていたのは、ランダムフィールドのエントリー作業中のスクルドだった。

厳密にはエントリーは完了したが、ガジェット選びの段階で悩んでいると言うべきか。

「偽情報やフェイクニュース、それ自体が凶器となって人を傷つけ――それらは暴行事件に発展することだってある。SNSテロも同じだ」

 他のサイトもチェックしつつ、スクルドはガジェット選びも並行している。結局、自分に合うガジェットは――。

「ゴリ押しや恐怖に訴えるような暴力を使った時点で、ARゲームとしてのルールに反している――デスゲームというルール違反に」

 ため息交じりにスクルドは他のサイトも巡っているのだが、大抵が同じようなコピペやテンプレで――違う切り口の意見を見つけるのも一苦労だ。

「ここからだ。ヴェルダンディやウルズにも――」

 銃を思わせる形状のARガジェットにメッセージが表示され、それを見たスクルドはアンテナショップの外へ出る。

そして、彼女はスタートラインへとゆっくりと向かっていた。


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