ヴェルダンディとの邂逅


 3月1日――この日は晴天である。天気予報では晴れだったので、それが的中した格好だが――。

その一方で様々な勢力が揚げ足取りの出来るニュースを探し、ネットを炎上させようと動いているらしい。

【またこの展開か――まるで、FX投資等を連想する】

【ネット炎上も一種の株式投資のタイミング――とでもいうのか?】

【連中は金もうけできそうなネタがあれば、何であろうと利用する。例え週刊誌報道で炎上するアイドルだろうがお構いなしだ】

【しかし、例外として芸能事務所AとJのアイドルは逆に金のなる木と考えて守ろうとする――】

【そう言った展開が繰り返されるから、コンテンツ業界は余計な物を巻き込んでつまらなくなっていく】

 その他にも様々な発言があったのだが――いくつかのコメントは削除されている辺り、芸能事務所の圧力か単なるファンによる通報なのか。

しかし、こうした些細な通報等ではARゲームは炎上しない。いくつかの炎上パターンに対して対策は万全なのである。

「愚かな事をするわね――そんな事をやっても、無駄なのに」

 谷塚駅で降り、周囲を見回してネット炎上勢力が隠れていないか――目視確認をしていたのはスクルドである。

彼女の場合、ARガジェットに赤外線レーダーや暗視ゴーグル、ステルス迷彩と言った装備もアプリとしてインストール済みだ。

さすがに谷塚駅構内では使用不能だが、ARフィールドの展開されている場所では――敵に回すとどうなるのか、想像は容易だろう。

「ネット炎上勢力が目を付けられているのは、既に分かっていると思うのに」

 先ほどまでは立ち止まって一連のつぶやきサイトを見ていたが、今は敵の気配を感じ取ってタブレット端末は収納していた。

しかし、周囲にいるのはサラリーマンだったり一般客と言った部類であり、彼女の懸念するようなネット炎上勢力はいない。

仕方がないので、彼女はFPSのプレイ出来るARフィールドまで徒歩で移動する事に――。



 この日、草加駅に姿を見せたヴェルダンディはウルズとスクルドとは合流せず、単独で行動をしていた。

あの3人に限って言えば、目的こそは一部で共通するが――行動方針が異なっている。

(なるほど――)

 草加駅を出て目の前に入ってきた光景は、センターモニターに集まる群衆だった。

どうやら、西雲春南(にしぐも・はるな)が先ほどのレースで1位になったらしい。

一方で西雲がARゲームを終わらせるのではないか――という意見が全て否定された訳ではないのである。

群衆の声を聞く限りでは、西雲に否定的な意見も聞かれたが――ネガティブな意見を拡散させようとするのは芸能事務所に雇われたフラッシュモブの手段だ。

既にテンプレ過ぎて、使い古されている。それでも連中が使うのには理由があった。

例えデマの意見でもネット上でつぶやきサイトを経由して拡散すれば――精神的ダメージを与えられるのは過去の事例で実証済である。

「どうやら、あの表情は――」

 モニターの状況を全て確認する事無く、ヴェルダンディは別の場所へと歩いて向かう。その先にはARゲームフィールドセンターがあった。

どうやら、ヴェルダンディも本格参戦するようである。



 西雲とヴェルダンディは、昨日の段階で偶然だが遭遇をしていたのである。

「君は過去を捨てて、新たなフィールドで心機一転しようとしているようにも感じられる」

 面と向かって、ヴェルダンディは直球の発言をする。当然だが、これを聞いた西雲は――両手で拳を作り、その腕は震えていた。

「心機一転で仕切り直すのは――悪いことだって言うの?」

「仕切り直す事やリフレッシュする事は悪い事ではない。行き詰まりを感じたのであれば、その行動も間違ってはいないだろう」

「じゃあ――どうして!?」

 西雲の方は若干涙目になり、ヴェルダンディの方は何時ものクールビューティーな表情とは全く違う熱い何かを持っていた。

西雲の方は、今でも殴りかかりたい――ヴェルダンディを殴って解決出来れば、と。しかし、ARゲームで暴力沙汰は厳禁である。

その為、彼女は拳を作ったとしても振り下ろせないのだ。ネット炎上だったらコメントで反論できるのに、今の状況ではそれも出来ない。

ネット上ではゲーム研究家であると同時に、サイト管理人でもあるので――それを利用して情報を発信して反論もできるだろう。

しかし、今の状況は――圧倒的に不利だったのである。

「過去を捨てて未来を信じて進む――それではネット炎上勢力やアイドル投資家等と変わりがない」

「私が――ネット炎上勢力と変わらない――?」

 ある意味でも彼女は過去を捨ててARゲームで新たな環境を得ようとした事に関して、全否定に近い口調で言及されたのだ。

これには、彼女は――完全に反論する手段を失い、ヴェルダンディの前から姿を消したのである。

 それから家に戻り、色々と考えた末に――西雲はヴェルダンディの言った事を理解し、過去を捨てずに――新たな道へ進むことを決心した。

過去の反省点を生かさなければ、それは再び過去の承認欲求を求めていた時の時代に逆戻りするだろう。

誰かからの発言を受けて、考えを正されるのは過去の彼女にはなかったかもしれない。だからこそ、あの炎上事件が――。

 

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