鍋を洗えば


鋼鉄の巨大な胴体と

それを満たす熱湯

鍋を傾け、湯を捨てると

地獄の底を覆うかのような湯気が

朦々と天井へと立ち上る


鍋に残った大小数千の骨のかけらを捨て

鍋に20℃のシャワーをかけながら

金束子で表面の油膜を一掃する

酸性の洗剤が揮発して

むせ返る空気が辺りに充満する


鍋底に根を下ろしたように焦げ付いた肉片を

金属の板で削り取る

変拍子を刻みながら削り取る

手を切らないように注意を払いながら

鈍く痛む右手親指を感じながら

徹底的に削り取る


白い腕に汗が流れ

強情な油汚れは洗剤によって乳化し

情熱的な研磨の前に跡形もなく

排水溝へと敗走する


もう一度水を掛けると

鍋は突如初々しく眩い金属の光沢を取り戻す

実はこんなにも美しいものか

ただの大きな鍋が

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