1962年夏(1/5)

市役所勤めを辞めてからは結婚準備とかで忙しくしていたので当座気にはならなかった。

高校を出て市役所で働くようになって伯父さんと伯母さんの家にお金を入れていたけど、それは二人が貯金していてうちの結婚の準備や新居に使いなさいと言われた。

そのお金は今後に備えて貯金に回した。本当に伯父さんと伯母さん夫婦には頭が上がらない。


土地は千裕さんが貯金で買った。建物は20年ローンを組んでいた。


「今の景気ならそう問題はないわ」


この頃、千裕さんは何かあって飛ばされていた原因が解消したらしく財政部へ戻っていて市勢要覧の担当をしたりしていた。


「統計を見れば官も民も平均月給はどんどん増えている。池田勇人首相の国民所得倍増計画のおかげだな」


というのが千裕さんの見立てだった。


結婚して千裕さんとの暮らしも落ち着いて来た。

そして呉の町へ出る機会はめっきり減った。

買い物は伯母さんと私が一緒に出かけているけどそれぐらい。

伯父さんが野菜を作っているのでその手伝いをしたりしていた。

千裕さんが怒っていた事はこういう事だったのだなと理解し始めていた。

そんなものよと諦めていた。

でも千裕さんはそんなうちに新しい扉を持ってきたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る