1961年春(1/3)
千裕さんとよく会うようになって1年経った。
彼もうちと同じでご両親と姉を戦争で失った事は以前から聞いていた。
もともと兵庫県神戸の出身で敗戦後親戚を頼って呉にやってきて市役所に就職した人なのだ。
そう聞いていたうちは伯父さんと伯母さんに相談して正月に家へ招待したりもした。
そして正月明け。また普通の日々が巡って来た。
4月前、課長から勤務評定で面接を受けた際にそろそろ結婚とか話はないのかと言われた。
正直、千裕さんとどうなるかなんて分からんわとまだこの頃は思っていたし、課長に言ういわれもないし、知られたら彼が困るんじゃないかと思ってそれは一切言わなかった。
桜が咲き始めた頃に千裕さんから山歩きをしようと誘われた。
「灰ケ峰の頂上、戦争中の海軍の高射砲台跡がある。あそこ、展望台になっとるのはチセさんも知ってるかな。休山とか見渡せて気持ちもよさそうだし山桜を愛でる事もできると思うから一緒に登ろう」
そんな誘われ方をした。
「じゃあ、うちがお弁当こさえますから」
「じゃあ、わしもちょっと何か作っていくよ。二人で交換して分け合えば良いし」
そういう事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます