28回目:火・炎:浄化

 燃えるとはエネルギーを分離することと彼女は言った。炎とは分離することへの悲鳴なのだと。

 連鎖反応で取り出されたエネルギーは、熱浴の中で自由になる。最後に残るは、浄火の果てに情熱も尽きた、低反応性安定物。


 *


 ――美しいと思わない?

 この手の中に残るものすら。


 *


 その彼女の名はしばらくマスコミを賑わわしていたかと思えば、新しい事件が起きたとたんにあっという間に消えていった。テレビの画面の向こう側にわずかに見えた口元は、満足げで、けれど僕には空虚に見えた。


 すっかり片付けられた彼女の家の跡に立つ。切り取られた都会の空の向こうから太陽は今日もその身を削って燃え続けている。僕らはその一部を受け取って、また一日を。

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