攻撃は最大の防御
「ジ・シェーナアローレイン!!」
詠唱後、黄金に輝く巨大な魔法陣がアリスの後ろに出現し、そこから数千の光の矢がほぼ同時に射出された。
__数十分くらい回避と防御でなんとか耐えたが持ってあと数分がいい所だろう……。
最大まで身体強化の
ヘリクに向かって飛んでくるそれは、対象を通り過ぎると消滅し周りに被害が出ないようになっているらしい。かと言って容赦は無い。
__どうする……ここで殺されるくらいならいっそ使ってしまうか? さっきの集団もどこかに行ったっぽいしな、こいつだけなら勘づかれても何とかなるかもしれない。逆転勝利とは行かないだろうけど隙が作れればそれで充分だ!
「どうした? 私相手に随分と余裕があるじゃないか! ……舐められたものだな」
突然避けることを辞めた俺に向かって違和感を覚えたのか言葉を使って陽動をしてくる。
だが俺は、そんな事を完全に無視して
そうしている間にも大量の矢がヘリク目掛けて超速で飛んでくる。
そして何本もの光の矢がへリクの身体を掠めた時だった。
__ミラーリング・ミラージュ!!
ヘリクの足元に半透明の魔法陣が出現し、
次の瞬間__大量に飛んできていた光の矢がヘリクの後ろ側に現れたガラスの様に透き通った透明な矢によって一本残らず撃ち落とされた。
「なっ! 馬鹿な! 一体何が……!」
一瞬の出来事に愕然とするアリス。
__隙が出来た……! 散々いたぶってくれたお礼に一発ギャフンと言わせてやったぜ! だけど……切り札使って一撃もお見舞い出来ない時点で勝てる気がしない! よってここは……逃げるが勝ち!!
一瞬の隙を見てヘリクは障壁目掛けて猛ダッシュする。少し遅れてそれに気づいたアリスはすかさず遠距離
物凄い速さで射出された光の矢は障害物を器用に避けてヘリクを狙う。だが、
__今からじゃもう遅いっての!
すぐ後ろを追跡してくる光の矢をファイアショットで相殺すると、正面に現れた十メートルの絶壁を軽く飛び越えて逃げていった。
アリスは逃げていくヘリクを追いかけようとはせず、純白の建物の上で一人呆然としていた。
「……無詠唱で魔法陣を構築したと思えば私のアローレインも弾かれていた。しかも透明の魔法陣だった、そんなものは聞いたことがない。……奴はここに侵入する時、恐らくだが何らかのエンハンスと発見されるのを防ぐために認識阻害系の
研究所には再び静寂が訪れていた。
────────────────────
__はぁ……めっちゃ頑張って侵入したってのに手に入ったものといえば、
研究所から脱出してきたヘリクは一度も立ち止まらずにアルメリア公国から出た。
草原は夕焼けで赤く染まり美しく照らされている。
ヘリクは草原を駆け抜けながら一連の出来事を簡単にまとめると、その次は家に帰ったら何をしようか考える。
__ご飯でもいいけど昼代高かったからなぁ。水飲んで寝るか? でも、風呂も入りたいな……今日は特に疲れたし。そうだな、風呂に入ろう。 んで水飲んで寝よう。夜食は抜き、朝飯を沢山食えば問題無いしな。
帝国にある月一万メルの小さな自宅でゆっくり休もうと完全に気分をオフモードに切り替えた、その時だった__進行方向で耳を劈くような爆発音がし、それと同時に複数の悲鳴が聞こえた。
一瞬の出来事で処理が追いつかないまま正面を確認すると、先程から列になって走行していた魔導車、その前方に今朝討伐したゴーレムに良く似た形のモンスターが見えた。
__なんだ……あれ……
それをよく確認すると、ヘリクは一気に加速し救助に向かった。
──────────────────
「各員は直ちに配置につけ! 戦闘準備!」
後方の車から次々と鎧に専用武器を装備した集団が出てくる。
「見た事ない種のゴーレムだな……弱点と貫通する属性が分かったら報告しろ! くれぐれも深追いはするなよ!」
「帝国騎士団第三部隊の名において全力で彼らを防衛しろ! 行くぞ!!」
「オォー!!」
大地に響き渡る掛け声と共に騎士団が輪状展開していく。
先陣を切ったのは第3部隊隊長の近接
「物理と魔法が貫通する……氷属性もか。一体どんな秘密を隠してやがる……!」
攻撃を受けたゴーレムは隊長を狙うために方向を変える。それと同時にターゲットから外れた魔導車は出来るだけ遠くに離れていく。
「これでしばらくは問題なさそうだ」
魔導車の列が移動していくのを横目で確認していた隊長はそれらの異変に気づいた。
「魔導車が……止まった……? ……地面が、揺れている……!」
地響きと共に現れたのは今、目の前にいるのとは別のゴーレム、そしてそれは魔導車の列の前にいる。
まるでそこに魔導車が来る事が分かっていたかのようにピンポイントで現れたのだ。
「ふざけた野郎だ……全員、直ちに蹴りをつけて研究者殿の救助に行くぞ!!」
ゴーレム一体に対して、コチラは2、30人の団体で隊列を組んで攻防を繰り広げている。帝国式対大型モンスター用の陣形だ。超エリート__超エリートといっても第3部隊というのは一番下の階位の騎士団なのだが__の騎士団がここまで安全・慎重に徹底するのは死者を最低限に抑えるという騎士団長の意向あってのものだ。
「守備隊のガーディアンは一度後方へ! その間、マジックキャスターは遠距離
大型モンスターにはそれぞれの弱点や特徴がある。スライム系なら物理ではなく魔法系で攻撃する事、ゴーレムなら一種類は存在する無効化対象以外で攻撃する事、アンデッド系なら聖属性の魔法か武具で特攻、など的確な攻略法があり、それらを徹底することで比較的安全に倒すことが出来る。
このゴーレムは情報が少ないので足元を破壊する事でバランスを崩し隙を作る。そして立ち直るまでに最大限の情報を引き出す、という隊長の作戦のもと騎士団が互いにカバーしながら戦闘しているのだが……
「隊長! 様子がおかしいです!!」
足元を攻撃していたブレイカーが大きく声を上げる。しかし、僅かに遅かった。
ゴーレムは自らの身体を複数に分解し、騎士団を囲むように大きな円を描いて散らばった。
しばらくすると大量のゴーレム片が高温の蒸気を発生させながらグネグネと動き出し、何かの形を作っていく。
「……ま、まずい!! 直ちに破壊しろ! 急げ!」
隊長が全体に指示を出した時にはゴーレム片はそこに無く、目を疑うような光景が広がっていた。
そこらじゅうにあった固形のゴーレム片は、二メートル程の大きさで全身が黒く、あたかも人間を真似て作られたかの様に精密に造られていて、全身に淡く光る血管の様なものが通った人型の軍隊がそこにあった。
「……な、んだこれは……」
───────────────────
__いつの間に魔導車の方向にもゴーレムが! 全力で走ってたせいで気づかなかった。魔導車に誰が乗ってるのか知らないが手遅れになる前に救助しないと!もう一体のゴーレムは騎士団がいれば問題ないだろう。俺は最優先で無力な一般人を助けたいからな。
ヘリクは全力で地面を踏み込んで魔導車の前方まで一気に飛び込む__だが、力加減を誤りゴーレムの頭を掠めてやや後方で着地。
__痛ってぇ。少しオーバーしたか、まぁ情報もゲットしたしいいか……ん? あれは……!
ゴーレムの足元を歩いて抜けて、立ち往生している魔導車のフロントガラスに向かって軽く一礼してから突然、両手の人差し指を耳の中に突っ込んで耳を塞ぐようにジェスチャーで伝える。
いきなり車の正面に人が吹き飛んできて動揺しているのか特に反発することも無く乗っている人全員が指示通り耳を塞ぐ。再度、よく車の中を確認してからゴーレムに向き直る。
そして一息置くと、両拳に力を込める。
__アクセルエンハンス
__パワーエンハンス
__センス・オペレーション
辺りに不快な音が響くと同時にゴーレムがピタリと動きを止めた。
__このゴーレムに
センス・オペレーション__周波数を操作して精神を操作したり音を大音量で響かせ強制的に認知させることで内部の感覚を狂わせ、様々な感覚器官に障害が発生し相手の動きに制限を与えることが出来る
__やっぱり、このゴーレムは初めて見るタイプだな……魔法、物理両方とも貫通、さっき頭に攻撃した時はそうだった。更にデバフも効く。となるとコイツの特異体質はなんだ? 早いうちに討伐してしまうか。 周りの地面ごと吹っ飛ばしてもいいのだが近くには一般人もいるし巻き込むようなことは出来ない。まぁ、余程のことがない限り下から上に衝撃を逃せば問題はないだろう。
後のことはあまり考えずにすぐ
__グランドショック
本来、地面に打ち付けるように発動する
その後、一瞬閃光が走ったのを確認した時にはゴーレムは消滅していた。
───────────────────
「ぐっ……くそ……や、め……」
黒い肌をした人間の様なものに首を絞められて一人、そしてまた一人と殺されていく。首から上がもぎ取られた者、奪われた武器で串刺しにされた者も大勢いる。辺り一面は血の海になっていた。
「なぜ……どうしてこんな事に……俺のせい……なのか? 俺が誤った指示を出したからなのか……」
目の前で団員が次々と殺されていく光景を見つめながら、男は大地に膝をつき呆然とする。
ふと、こちらを見ている女性が目に入った。
__ありがとうございました、隊長……
泣きながら微笑んでそう言い残した女性の団員の身体が発光し、爆散した。
「……ふざけるな。ふざけるなよ……この化け物共がァ!!!」
男は
だが、斧は先端だけが溶けて無くなり無駄に終わる。
「舐めるなぁぁ!!」
男に向き直る黒の人間に向かって一歩踏み込むと右拳に力を込めて
「ブレイン・オーバーショット!!」
頭に狙いを定めて上位近接
黒の人間は頭が吹き飛び遠くで爆発する、下半身は溶けて無くなりそこには何も残らない。
「くそっ……仲間を……返せよ……」
男は両膝をついてそう呟く。
男の周りに黒の人間がゾロゾロと集まってくる、そして取り囲まれた男は諦めたようにこう呟いた。
「最後くらい……あいつの笑顔が見たかったな……ごめん、ごめんな……」
薄暗く闇に染まった空を見上げて、涙を流す男の首に黒の人間が手を伸ばした。
______刹那
男の首に向かって伸ばされた黒の人間の腕が一瞬にして爆発し衝撃波を受けて黒の人間が複数体、後方に吹き飛ぶ。そしてそこには黒煙だけが残った。
圧倒的な脅威を感じたのか黒の人間達はそこから一歩ずつ後退していく。
「…………」
男は顔の前に差し出された手を取り立ち上がった。
そしてようやく一連の出来事と状況を把握した。
「……君は、一体」
__そこに立っていたのは灰色の髪の青年だった。
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