やる気

やる気

それが

ごっそりと抜け落ちた

「さよならっすね」

そんな言葉を最後に残して去った

わたしは無言で手を振るだけだった

やる気

かつてわたしのすぐ隣にいたはずなのに

今はもういなかった

呆気ないものだな

たった一人の部屋で時計の針の音はやけに大きく響いていた

やる気

わたしから離れてそして死んだらしい

だからあれほど言ったのに

あのまま

わたしの傍にずっといれば良かったのに

何を思っていたのか

けれどもう今は遅い

やる気は去った

そしてわたしの知らない何処かの路上で背後から刺されて死んだらしい

その真偽はよくわからない

どちらでも良いことだ

どちらにせよもう二度とわたしの前に姿を現さないだろう

「ふう………」

わたしは溜息をついた

肺呼吸を差し置いてそいつが主役になるらしい

やる気

最初あったものが

今はもう影も形も無くて

そして代わりのもので隙間を充填しなくてはならない

その作業が酷く面倒に思えた

だが何も無いままでは生きられない

わたしの人生は下り坂へ差しかかっていた

そしてここからが長いのだということを何となく知っていた

耐えられなくても続くだろう

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