0424
防災訓練があった
とても面倒くさい
このためだけにわざわざ閉館後、居残りをしなくてはならなくなるのだ
普段ならとっとと帰ってしまえるのに
消防法で定められていて、年に二回は必ずそれを行なわないといけないのだ、例えどれだけそれが無意味に思えようとも
訓練なので、もちろん実際の出来事とは異なる点が幾つかある
まず火が出ない
これがおれたちのやる気を失くさせる最も大きな要因だろう
火災訓練に火が無い
これは交通安全教室に例えると車が出てこないということと同じだ
焼け死ぬわけがない
何故なら火が無いのだから
それでも係員が「ぶうーんぶうーんっ」などと口で言いながら架空のハンドルを握り締めて接近して来たら横断歩道にいるおれたちはどう思うだろうか?
はっきり言って常人の沙汰ではない
しかしそのようなことを政府が推奨している以上、誰も文句を言いたくても言えないのだ
管理職のいい歳したスーツ姿の人も「応急救護班、活動せよっ」とか言ちゃっている
おれはなんだかもじもじしていた
恥ずかしいのだ
おれの役目はけが人を搬出することでも、消防署に電話することでも、ただ黙ってみていることでもなく消防ポンプを停止させることだった
火災が起きると例の丸いプラスチックボタンを誰かが押すのだ
すると消火栓から水を吹かせるために水圧を作るための専用のポンプが自動的に作動をするのだ
真似するのはここまでで実際に吹かせはしない
だからおれはせっかく轟音で動き始めた水圧ポンプをすぐに止めなくてはならない
(こいつが本当の意味で役に立つ日はいつか来るのだろうか?)
おれは思う
それは誰にも望まれない事態だろう
そしておれたちはもう薄々、気付いている。そんな日は永遠に来ないのだということを
少なくともおれたちがこの施設に勤務している期間中は起こらないだろう
おれたちの購入した宝くじは当たることはないが、おれたちの働いている施設が炎上することもない
それは自分たちではない別の誰かが掴んだり、掴まされたりすることなのだ
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