0315

雨矢健太郎

0315


特に何も無い一日であった。

もちろん本当に何も無いわけではなかった。

たとえば肺呼吸はしていた。

心臓も動いていたらしい。

それでもそういうことを含めて何も無いのだ。

ただ生きているだけではいけないのだ。

何かをしなくてはならなかった。

だが今日と言うこの日をわたしは無為に過ごした。

そのことに成功した。

人生の一部を屑籠に叩き込むことに成功したのだ。

そういうことにしておいた。

ふう。

振り返ってみても死ぬほどどうでもいい一日だった。

いつものように満員電車に朝、揺られた。

酸欠寸前でおっさんの頭皮の匂いを嗅がされた。奇妙な香水の匂いがした。

何故、電車に乗ったのかというと会社に行くからだ。

会社。

そこで行われることほど特に何も無いはなかった。

もはや自宅に戻り、今こうして記述している最中にも何一つとして振り返りたくはないことばかりだった。

まったくわたしたちは騙されているのではないだろうな? 何か宗教めいた、理解不能の、空っぽの箱のような物を愛でているのではないだろうな? これ以上わたしを追い詰めるな。きっと人を刺すぞ。それはお前かもしれない。明日の朝ばったり会ったおれがお前を刺すかもしれない。

うんざりなんだよ、この人生に。

どうしてこうなった? ドラクエでは人は自分以外の誰かになれると教わったはずだったが………。人は自分以外の誰かになれる。だが一番、大切なことはゲームは現実ではないということだった。

これ以上、もう何も書きたくはない。

日記のように何か綴るべき出来事が自分に用意されていると思っていたが実際にはそんなもの無かった。ただただ単調な、理解不能な法則に乗っ取られた薄っぺらい現実というやつが続くだけ。死ぬほどつまらない超高解像度の映像を見せつけられるだけ。

どうして小説など書こうと思ったのだろう。思ってしまったのだろう。

才能なんて無いのに。

どうせこんなところで呟いても誰も自分に興味関心など抱いてくれない。わかっているんだ。それなのにどうしても今の与えられた現実に満足、出来ない。もしかしたら自分にはもっとまともな、もっとより良い未来が用意されているかもしれないなどと甘美な夢を抱いてしまう。

いつになったら取り返しがつかないということに気付くのだろう?

友人は皆、結婚してしまった。

あの頭の悪そうな連中は皆、正社員になってしまった。本当に頭の悪かったのは自分だったのだ。いつまでも手元から離れた風船の行方ばかりを気にして空を眺めていた。

残念賞。

結局のところ自分の人生はそういうことだったのだ。

最初から決まっていた。そう思えば少しは気が楽だ。


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