詩集『私の嫌いな僕のこと』

雨月 秋

永劫回帰

そして、その穴を埋めるように、ため息を吐いた。寒夜空に煙が昇り、それがここからじゃ見えない高度に達した時、周りくうきからの無関心に虚しくなって、雲になった。そうすることであの空の空っぽを満たそうとする。そのそばをミサイルが飛んでいって、白い傷を、この星の輪郭を描くようにつけていく。その傷口も、空の空っぽを満たそうとしているのだから、皮肉なものだ。「ミサイルが発射されました」朝、そんな言葉を看板みたいに掲げているテレビ画面を見ていた私は、昼、誰かの悪口がミサイルみたいに飛び交う教室の片隅で机に突っ伏していた、弁当のない休み時間に耐えかねて空っぽなお腹を満たそうと本の文字を飲み込んだ。放課後、誰もいない空き教室に行って、たった一人、好きな言葉を紡ぐ、幸せ。それくらいの幸福がちょうどいい。だけど、それを飲み込むくらいの嫌なことが世の中の常、それも事実。生きる意味? 知らないよ、そんなの、なんて空っぽな結論で押しつぶす。ふと窓から空を見ると雨雲、赤い涙も真っ暗な陰で覆い隠せばなかったことになるんだよ、青が見えない、そのまま落ちてきそう。空っぽを満たそうとした偶像たちが不安定なホコリに結びついてしまって、雨が降る、悲しみ、苦しみ、酸性雨、あるいは感動、優しさ? 雨雲を傘にしたこの街じゃ、傘の中で雨が降る。だから、傘は持ってきてないの。電車に乗れば大丈夫と、駅まで走って、目の前で遮断機が降りて、目の前を電車が過ぎていく。さよなら、なんて言われて、素直に、さよなら、なんて言えるほど私は強くはない。嫌、嫌、嫌。あの空から差し込むはずの光がないの、この街は冬に模様替えしたばかりに、もう、まだ、眠れない、見せかけの夜。これだから冬は嫌いなんだって、誰にも愚痴れないから、溜飲の上昇、空っぽなはずなのにな、水たまりの揺れる水面を見ていれば時間のことなんか忘れられる、って言ってみたい。生きたくない(から、電車がやってきて、飛び込んでもいいかな、なんて思う)けど、死にたくもない(から、やっぱり飛び込まない、飛び込めない)、なんて、身もふたもない感情をどうすればいいんだろ。息苦しくはあったけど、空っぽなものは満たさなきゃって、穴の空いた空気を、溢れるくらいに吸い込む。 D.C.ダ・カーポ

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