水の侵略 タコタコ星人襲来

けろよん

第1話 暑い夏に宇宙船が来たよ

 夏真っ盛り。

 照り付ける太陽。眩しい陽射し。アスファルトから湯気が立ち昇るほど暑いこんな日は、プールで泳ぐのにちょうどいい。

 小学三年生の少女、小波一夏(こなみ いちか)はクラスの友達、横浜美波(よこはま みなみ)と瀬川唯(せがわ ゆい)と一緒に学校のプールに来ていた。


「空いてますわねえ」


 美波は綺麗で上品な顔を早く泳ぎたいとウズウズさせて言った。彼女は好奇心が旺盛な良い所のお嬢様だ。


「早く着替えてプールに飛び込もうぜ!」


 陸上部の唯は白い歯を煌めかせて爽やかに言う。彼女は運動が得意な元気で活発な少女だ。


「もっとのんびり行こうよ~」


 そんな二人の後から一夏はうだるような暑さにふらつきそうになりながら歩いて行く。

 今日は晴天。雲一つ無い青空だ。天気予報では『100パーセントの晴れでしょう、熱中症に注意』と言っていた。

 少しぐらい曇っても良いのに。30パーセントぐらい。そう思う一夏だった。




 水着に着替えてプールに行く。

 ここは学校なので着るのはもちろん学校指定のスクール水着だ。

 着替えるのに出遅れた一夏がプールサイドにやってきた時にはもう美波がプールの横に腰かけて足で水をぱちゃぱちゃ跳ね上げて遊んでいて、唯が元気にクロールでプールを往復して泳いでいた。

 一夏が来たのに気付いた美波が声を掛けてくる。


「遅いですわよ。一夏さん」

「二人が早いんだよ」

「早く泳ごうぜー」


 立ち止まった唯が手を振って呼んでくるので、一夏は美波と一緒にプールに飛び込んでいった。


「空いてるねえ」

「夏休みですからねえ」


 美波が言った通り、今は夏休みだ。そして、登校日の今日は学校のプールを自由に使って良いと解放されていたのだ。

 先生は興味が無いとばかりにチェアに寝そべって文庫本を読んでいた。


 登校日に残って学校のプールで泳ぎたがる物好きは少ないらしく、他に人影は無く貸し切り状態だ。

 一夏は友達と一緒にジャバジャバと水しぶきを上げて泳いでいった。そんな時だった。


 不意に水面に影が差してきた。影は瞬く間に進行し、辺り全体が薄暗くなってしまった。

 今日は雲一つ無い快晴で天気予報も100パーセントの晴れだと言っていたのに曇が出てきたのだろうか。

 もうプールに入ってから雲が出てきても遅いんだけど。


 一夏は不満に思いながら空を見上げる。そして、驚いて目を見開いてしまった。

 そこにあったのは雲では無かったのだ。


 宇宙船が飛んでいた。


 空に浮かんでいる金属の巨大な物体は明らかにそうとしか思えなかった。未知のテクノロジーが感じられた。


「宇宙船が飛んでるよーーーー!」


 一夏の叫びはすぐに周囲に伝わった。

 みんなが状況を呑み込んだ。宇宙船が来たのだと。そう納得できた。

 美波も唯もプールサイドの先生も学校にいた人達も学校の周囲の町の人達も、みんなが緊張と不安に身を強張らせながら状況を見守った。


 宇宙船から光が照射される。それは空へと向かって宙で広がり、そこにスクリーンのように映像を映し出した。

 あの光は空中に映像を映し出す装置のようだ。宇宙人の科学のことは分からないが、一夏はそう推測した。


 その映像に映し出された彼らが乗り組み員だろうか。

 タコのような火星人のような姿をしている。赤い触手をウネウネとさせ、丸い瞳は愛嬌があるが、彼らが友好的なのかどうか感情が分からなかった。

 隊長らしい中央の宇宙人が言う。流暢な日本語で。


「この星の人間達よ、聞くがいい。我々はタコタコ星人である」

「タコタコ星人!」


 見たまんまの名前だった。宇宙人の翻訳機がそう聞かせているのだろうか。

 続くタコタコ星人の言葉がそんな一夏の推測を裏付けてくれた。


「我々の言葉は伝わっているだろう。すでに君達の文明は調べさせてもらった。翻訳機は正常に作動しているはずだ」

「何て恐ろしい!」


 一夏は背筋を震わせてしまった。そう感じた一夏の予感は正しかった。タコタコ星人は友好的な宇宙人では無かった。物騒なことを言ってきた。


「我々の目的は一つ、侵略である。だが、武力による破壊を我々は望まない。そこで正々堂々とした勝負を君達に申し込む」


 宇宙船から光が発射される。どこへ向かうのだろうかと一夏が他人事のように眺めていると、それはこちらへと向けられてきて、ちょうどプールに入っていた一夏達三人を照らし出してきた。

 一夏と美波と唯は眩しさに目を細める。タコタコ星人は言う。


「君達でいい。君達が我々と勝負するのだ」

「えええええ!?」


 一夏は断りたい気分だったが、相手はそれを許さなかった。


「拒否権は無い。断れば武力でこの星を制圧する。地上の文明は滅びるだろう。お互いにそれは望むところでは無いはずだ」

「どうしよう」

「やりましょうよ。せっかくですし」

「選ばれるなんて名誉なことだな!」


 美波と唯は何だかやる気のようだった。友達がやる気になっているのに自分だけが尻込みをしているわけにはいかない。

 一夏もやる気を出そうと両手を握ってガッツを込めた。空を見上げる。

 タコタコ星人は言う。空の高みから尊大に。


「我々の星プールスターは水の惑星である。勝負は我々の流儀にのっとって水泳のリレーとする。君達が勝てば我々は去ろう。逆に我々が勝てばこの星の大陸を全て水に沈める。この星は第2のプールスターになるのだ。勝負は明日の午後からとする。せいぜい今のうちに水泳の練習をしておくがいい! わっはっはっ」


 光が消えてタコタコ星人の映像も消える。そして、宇宙船は飛び去っていった。

 辺りに元の明るさが戻る。100パーセントの青空だ。だが、束の間の平和だ。

 事態は一夏達の心に曇り空のような不穏な空気を残していったのだった。

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