第50話 強襲

ジュスランは、すぐに自軍を走り回る敵の別働隊を片付けるように指示する。その任を受けたのは、ダンガルガと呼ばれる将軍であった、彼は百人殺しのダンガルガと呼ばれるほどの猛将で知られていた。ある戦いで、一騎で敵陣に攻め入ったダンガルガは百人の兵と、敵将を打ち取ったことからこの異名をつけられた。


ダンガルガは、三百の騎兵を率いて、自軍を動き回るアースレインの部隊を追った。


クリシュナは、持ってきた魔法爆弾を使い切ったので、一度その場から離れようとしていた。だが、それを阻止するように、騎兵の一団が、クリシュナたち近づいていた。すぐにその気配を感じて、戦闘態勢に入る。


ダンガルガの最大のミスは、クリシュナたちの戦闘力を見誤ったことである。ダンガルガは確かに強かった、だが、それは驚異的な強さ程度であった。今、目の前に居る敵が、その想像を遥かに超える存在ということを理解していなかったのだ。


ダンガルガは、敵の将であるクリシュナに斬りかかろうとしていた。だが、その瞬間、クリシュナの周りにいた、一人の竜人族に一瞬で斬り伏せられる。ダンガルガは何が起こったか理解する前に、その猛将としての生涯を閉じた。


ダンガルガの部下たちは、自らの将が討たれたのを見て、躊躇したが、その仇を討つために、クリシュナたちに攻撃を仕掛けた。

「逃げればいいものを・・」


三百人程度の騎兵では、クリシュナとその精鋭の竜人族と戦うには力不足であった。クリシュナたちの剣が届く範囲に近づいた敵は、一瞬で斬り伏せられていく。そして、少しの傷も与えることなく、ダンガルガの部下たちは玉砕する。



ジュスランはダンガルガが討たれたと報告を聞いて、今、戦っている相手が、並みの敵ではないと、改めて理解した。

「少し見誤っていたか・・本気で潰す必要があるな・・」


こうして、ジュスランは、全軍の総攻撃を命じた。


クリシュナ部隊への攻撃がさらに強まり、さすがの巨人族の戦士たちも防戦一方となっていた。倒しても倒してもその攻撃は弱まることがなく、疲労が蓄積していく。いくら強い兵たちでも、無限に戦えるわけではなかった。やがて疲れが限界を迎え、難攻不落の密集陣形も崩壊するかに見えた。


その時、敵軍の側面に布陣していたラルタ軍に対して、エイメルが率いるアースレイン軍が強襲する。ラルタ軍は完全に油断していた。その一撃の強襲で、ラルタ軍の陣形は完全に崩れ、雪崩のように押しよおせるアースレイン軍にその兵力をうち減らされていった。


「アースレインの本隊か!」


ジュスランは、強襲されたラルタ軍を見て、すぐにグルガナ軍の一軍をラルタ軍の救援に向かわせた。今、ラルタ軍が崩壊するのを良しとしなかったのである。


だが、アースレイン軍の攻撃は、ジュスランの想像を超えていた。グルガナの救援が来る前に、ラルタの名将であるメルビム将軍は、突撃してきたアズキによって、無残にも一刀両断に斬り伏せられた。


ラルタを討つと、フィルナはすぐにその場からアースレイン軍を移動させた。それはクリシュナと合流する為であった。


「エイメル。クリシュナ部隊がかなり疲れてるから、少し休ませないと」

フィルナにそう助言されて、裕太もそれに賛成する。すぐにクリシュナと合流するように軍に命令する。


「エイメル様が来てくれました」

その報告を聞いて、防戦を指揮していたアポリスは、安堵のため息をつく。すぐにクリシュナも戻ってくるだろう。少し休んで、総力戦となることをアポリスは予期していた。


「ラルタ軍が崩壊! メルビム将軍が討たれました!」


ジュスランは、またもやアースレイン軍の強さを見誤ったことを恥じた。そして、その驚異的な戦闘力に驚異した。


「アースレインが強敵だと認めよう・・だが、勝つのは我々辺境大連合だ・・」


ジュスランは、もう油断することはないだろう。戦力が互角と考えて戦うことを決意していた。すぐにルドヒキ軍のマックラス将軍に、これ以降は連携して戦うことを打診した。

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