第197話衝撃の事実。

「皆、無事か?」


 ワイバーンの吐いたファイアーボールに焼かれ皇国兵士の死体が積みあがる中、僕達同様に王子を乗せた馬車もゆっくり地上へと降りてきました。

 馬車から顔をのぞかせた王子の姿を見た兵は、一瞬誰だ――とでもいった様子で首を傾げますが、王子の隣にいるキリング騎士団長の姿を認めると一斉に敬礼を始めました。

 ぷぷっ、王子より騎士団長の知名度が高いって笑っちゃいますね。

 僕が含み笑いを堪えていると、地上で指揮を執っていた隊長さんでしょうか?

 偉そうな中年のおじさんが王子の顔を見て臣下の礼を取りました。

 他の兵も一瞬唖然としていましたがそれに倣います。


「被害の報告をしてもらう前に、皇国軍の数を教えておこう。この兵の列はこの先ずっと続いている。人の数は恐らく数百万はいるだろう」


 突然、空からやってきた王子の言葉を聞き一瞬で全ての兵達の表情が青く変わります。

 洗脳された間者から聞いていた数の10倍以上の兵が押し寄せていると聞けばその気持ちもわかりますね。


「そ、そんな数をいったいどこから――」


 どこからと言われても、実際この人の流れは後ろが見えないくらい続いていますからね。

 王子も答えようがなく、ただわからんと声を漏らします。

 すると――。


 先ほど僕が助けた皇国の兵が口を開き衝撃の事実を語りだしました。


「私たちは兵士ではありません。私は首都近郊で農業を営んでいる者です」

「何を馬鹿な事を――農民がそんな恰好をしている訳がなかろう!」


 先ほど王子に臣下の礼を取った偉そうな人が声を荒げます。


「まぁ、まて。確かお前は第一兵団で団長を任されているカールソンだったな」


 カールソンはキリング騎士団長に恭しく礼をすると、一言、はっ、と声を上げます。


「皇国に魔族が入り込んでいるのは聞いていると思うが――」

「はっ、出立前に陛下からそう伝え聞いてございます」

「うむ、それなら話が早い。魔族は皇国に入り込み民達を洗脳によって操っておるのだ。ワイバーン部隊の半数も洗脳によって同士討ちをさせられ数を大きく減らした」

「――なっ」

「この農民が言っている事も恐らく本当の事だろう」


 キリング騎士団長が洗脳の話をするとカールソンは絶句した後、

 そう言われてみれば、確かに剣を振り回すだけで剣技とよべるものでは無かった様な、と小さい声を漏らします。


「理解が早くて助かる」


 キリング騎士団長に褒められ、満更でも無い面持ちを浮かべるとカールソンは畏まります。

 騎士団長と兵団団長では騎士団の方が格上の様ですね。

 僕にはどうでもいい事ですが。

 カールソンはどうでもいいからさっさと話しの続きを聞きましょう。


「それで農民のあなたがなぜ戦闘に?」


 やっぱり僕が仕切らないとダメですね。

 尋ねると――。


「「猫が喋った――」」


 はぁ。流石に何度目ともなると慣れますが……いい加減にしてください。

 カールソンと農民を無視して僕は続けますよ!


「尋ねているのは僕です。何で農民の貴方が兵の恰好をしているんです?」


 流石に僕が王子の同行者という事もあり二人は口を噤みます。

 静かになった所で再度尋ねました。

 何故か農民が笑いたいのか、顔を引き攣らせたいのか微妙な面持ちであらましを話し始めました。


「私達はガンバラ王国と数年ぶりに戦になると言われ、騎士達を見送りに首都に集められたんです。すると私達一般国民の前には顔を出さない帝が珍しく現れ、皆が一目その姿を目に焼き付けようと帝を見た瞬間――何故か私は兵士なのだと思ってしまったのです。それからは配給された革の武具を纏い、剣を与えられ首都からここまで歩いて来ました」

「そんなバカな話が――」

「カールソン!」


 カールソンが農民の話を聞き、またしても口をはさみますが、流石に二度目となるとキリング騎士団長も怒気を含んだ声音で発言を止めさせました。

 そして――。


「これが洗脳の本来の使い方か……」


 流石にキリング団長も農民の話を全て信じたわけでは無いでしょうけれど、それでもアンドレア国からここまでやって来る間の出来事と合わせて考えると納得出来た様で、短く言葉を漏らしました。

 帝ね……今の話を聞けば間違いなく帝が魔族だと言い切れますね。

 しかも一瞬で大衆を洗脳出来る能力とか――最早神に近いです。

 あ……皇国では帝は神の扱いでした。

 魔族じゃなくて邪神か何かじゃないんですかね?


「人種間戦争で大勢の人間が死んだのも頷けるな」

「一般市民が一瞬で洗脳されましたのね――」

「怖い話にゃ」


 フローゼ姫が過去に起きた戦争を痛ましく思いながら眉を寄せて言葉を漏らせば、エリッサちゃんは同情的な視線をワイバーンと対峙している皇国の兵士に投げます。

 ミカちゃんに関しては他人事では無いですからね。

 一度洗脳されていますし……。

 でもこれだけの人が洗脳されているとはいえ――どうしたらいいのでしょうね?

 まさか僕が一人ひとり気絶させて回る訳にもいきませんし。

 僕の魔法では手加減なんて出来ませんから、放った瞬間死んじゃいますし……。

 長い行列を作る皇国の兵をうんざりした面持ちで見つめました。

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