第183話ガンバラ王の策略

「つっ、こんな時に――」


 伝令の知らせを受けてフローゼ姫が愚痴を漏らします。

 既に城内で勤務している騎士達は尖塔に駆け出していきました。

 僕達も急いで外に出ないと――そう思っていると、


「おお、思ったよりも早かったな」

「はっ、陛下に依頼した数は200ですからワイバーン部隊の半数を即座に送ってくれたようですな」


 急いで外に飛び出そうとしている僕達を横目に、呑気に話をしている王子と騎士団長の会話を小耳に挟みようやく飛来したものの正体に気づきます。


「まさか――国に要請した援軍とは」

「あはは、驚いたかい? これでも無理を通したんだよ。流石に皇国の上空を飛行する訳にはいかないからね」

「それじゃやはり今、飛来しているワイバーンは――」

「うん。我がガンバラ王国が誇るワイバーン部隊さ」


 高まっていた機運が一気に萎みます。

 フローゼ姫とトベルスキー王子の会話を隣で聞いていた皆もそれは同じで、一気に脱力すると腰を上げたソファーに再び座り直し一斉にため息を吐き出します。

 エリッサちゃんは伝令の兵にワイバーンは皇国軍では無く、対皇国の為にガンバラ王国が寄越した援軍である事を告げると、伝令兵はその知らせを各兵に告げる為に来た道を引き返していきました。

 それにしても同盟国でもないのにいきなりワイバーン部隊を送り込むとは――。

 今回は王子が一足早く僕達にその情報を知らせていたから良かったものの、一歩遅ければ大惨事でしたね。


 主に――ワイバーン部隊の方が。


 今は僕達の戦力を強化する必要もあり、魔石はいくらあっても足りません。

 200のワイバーンの魔石を食べればいったいどれだけの魔法を覚える事が出来たのか……そう考えるとタイミングが悪い方が良かったですね。

 僕がそんな事を考えているとは知らずに、王子は恩着せがましくフローゼ姫に語り掛けます。


「姫のピンチに颯爽と駆け付けるのは、白馬に乗った王子だろ? 少しは僕を見直してくれたかな?」


 なるほど――面持ちはしっかりしてきましたが、河童は河童ですね。


「ああ。少なくとも皇国の魔法師相手で無ければ強力な味方だな」


 フローゼ姫は今まで色恋の話に疎かった分、王子のそんなアピールにも冷静に言葉を返します。

 一方で王子は皇国の魔法師の情報は初耳だった様で、


「皇国にワイバーン部隊をどうにか出来る程の魔法師がいるっていうのかい?」


 心底驚いたとでもいう様に瞳を大きく見開きました。


「あぁ、厄介な事に妾達と同等かそれ以上の魔法師が少なくとも2人はいる」


 その言葉を聞くと王子は騎士団長に目配せをしました。

 騎士団長は小声で、直ちに、と告げると部屋から飛び出し駆けて行きます。

 何慌てているんでしょうね?

 少なくとも現時点でサースドレインには僕達も居ればここの騎士団もいます。それに加えて王子が送り込んだワイバーン部隊も――。

 慌てている様子の王子に気づきフローゼ姫が声を掛けると、一瞬の後に王子がその理由を語りだします。


「実は――此度のワイバーンの援軍と並行して、皇国を攪乱する為にガンバラ王国からも皇国との国境へ兵を送り込む手筈になっているんだよ」

「まずいですわね」

「まずいにゃ」

「アンドレア国は今までと変わらぬが、これでガンバラ王国が負けると」

「大陸の人が治める国をほぼ皇国が統一する形になるね。しかも先に手を出されたという大義名分まで引き下げて」


 他にも弱小国はありますが、これまでの皇国のやり口をみればそれらを属国に治めるのはたやすい事でしょう。

 これまで覇を唱えなかったのが不思議な位に最近の皇国は武力を全面に押し出しています。

 渚さんやアッキーが居なければガンバラ王国にも勝ちの目があるかも知れませんが、渚さんがいるという事は――弟子の数も1人だけとは限りません。

 それに子爵領から一瞬で撤退した様な魔道具が他にも無いとは限りません。

 洗脳の情報と共に――面倒ごとまで運んできてくれました。


「それで国境に進軍した兵はいつ開戦する手筈なのだ?」


 内政には疎いフローゼ姫ですが、姫騎士の異名に違わない質問を投げかけます。

 王子は顔に冷や汗をびっしりと掻きながら、


「ワイバーンをここへ送り込んだその日には王都を発ったはず」

「「「はっ?」」」


 さすがに皆も開いた口が塞がりません。

 兵は拙速を尊ぶとは三国志に登場する軍師が残した名言ですが、それにしてもこちらの状況を知らずに行動を開始するのは如何なものかと思わざるを得ません。

 ガンバラ王はアンドレア国に恩を売りながら、こちらとあちら側とで挟み撃ちを掛ける作戦だったのでしょうけど――完全に相手の戦力を見誤っていますね。


 顔色の悪くなっていく王子を横目に皆で深くため息を吐き出しました。

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